歴史認識をめぐって、政治指導者が侵略を否定する発言を繰り返す日本。戦後国際秩序への挑戦だと国際社会から厳しい批判を浴びています。にもかかわらず、「靖国」派などからは「いつまで日本は謝り続けるのか」などといった暴言が飛び出す状況です。侵略戦争への謝罪をどう考えるのか、ドイツとの比較で考えてみます。
日本とドイツは第2次大戦時、ともに隣国などを侵略し多くの人を虐殺しました。しかし、戦後、両国の戦争責任を問うあり方には大きな違いがあります。ドイツではナチ犯罪に時効はなく、また誰であってもホロコースト(ユダヤ人大虐殺)という歴史的事実はなかったと流布すれば刑事責任が追及されるなど、厳しく対応してきました。
ネオナチのデモ中止
「ネオナチの前にいつもたちふさがる市民。ついに極右はデモを放棄」(ドイツの海外向け公共放送ドイチェ・ウェレ)―先日、古都ドレスデンからこんなニュースが飛び込んできました。
実は、ドレスデンはネオナチの“聖地”です。同地では1945年2月13日の夜から翌日にかけての米英軍の空爆で約2万5000人が死亡。ネオナチは、戦後60年の2005年ごろからこの空爆を「連合軍の空爆テロ」と取り上げ、「(ナチスからの)解放のウソと罪の崇拝を終わらせよ」と毎年2月14日前後に、集会・デモを開催。これに対抗する市民とのにらみ合いが続いてきたからです。戦争犯罪の反省・克服を「罪の崇拝」と唱える勢力はさらに片隅に追いやられています。
ナチ指導部の政界復帰皆無
日本では、A級戦犯容疑者として逮捕・勾留された岸信介が首相になるなど、太平洋戦争を推進した張本人たちの一部が戦後政治の中心に座りました。ドイツではナチス指導者が戦後、政界に復帰することはありませんでした。
1968年11月7日、キリスト教民主同盟の党大会でキージンガー首相(当時)が「ナチ」と叫びながら駆け寄った女性に平手打ちされる事件は有名ですが、同首相はナチ党員で外務省に勤めた前歴がありました。指導的地位になく、ユダヤ人虐殺には加担しなかった同氏ですが、その経歴は常に問題になり、国民が歴史認識をさらに問い直す機会になりました。
ホロコーストの事実否定も犯罪に
ナチスの犯罪に時効はありません。2013年、ナチスの犯罪を追及するドイツの公的機関「ナチス犯罪解明のための司法行政中央本部」は新たに40人ほどのアウシュビッツ強制収容所の元看守をリストアップして調査。この調査を元に、2月20日には、ドイツ検察当局が南西部バーデン・ビュルテンベルク州の88歳、92歳、94歳の3人の男を逮捕しています。
同中央本部のクルト・シュリム所長は本紙に、「ナチス・ドイツの犯罪は世界史的に見ても際立ったものです。長い時間をかけてもその罪を償う責任があり、それは義務でもあります」と語っています。
また、ホロコーストはなかったと流布することもドイツやオーストリアでは犯罪になります。05年には英国の歴史小説家デビット・アービング氏が「ホロコーストはなかった」とオーストリアで発言し、逮捕されました。
独マスメディアの日本の安倍政権を見る目もこの点から厳しいものがあります。ホロコーストがなかったとする主張は「修正主義」と呼ばれます。安倍首相のNHK人事について、独紙フランクフルター・アルゲマイネは、「米大使館でさえ、NHKの国粋主義者や修正主義者の影響力増大を見ざるを得ない」と南京虐殺否定発言などを念頭に、「修正主義」という言葉を使って報道しました。
歴史をきちんと伝え
若い世代への継承も力を入れています。ナチス・ドイツの被害を受けた国々との共同の歴史研究や教科書づくりが進められ、歴史の授業の中で、ナチスについては特別の重点が置かれています。
ドイツ各地の歴史博物館なども、学校の教師と連絡を取り合い、ナチスの「過去の克服」の展示や講義をしています。
ドイツ歴史博物館のマヤ・ペアーズ展示責任者はいいます。
「若い世代は、ナチス・ドイツの犯罪とは何の関係もありません。しかし、若い人にも、過去のことを記憶する責任はある。重要なのは私たちが20世紀の歴史をきちんと伝え、若者たちが事実を知ることです」
(片岡正明 写真も)