安倍晋三首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が2日に終わりました。日本共産党は、志位和夫委員長と山下芳生書記局長が、集団的自衛権や消費税増税問題など焦点課題で首相の姿勢をただしました。しかし安倍首相は、正面から答弁しない態度に終始。立場が異なる意見に反論する能力も意思もない姿を示しました。そこから見えるものは―。
集団的自衛権
「指摘あたらず」連発
国会閉会中の7月1日に強行した集団的自衛権行使容認の「閣議決定」について志位氏は、どの世論調査でも反対が5割から6割にのぼることを指摘。首相が長崎の被爆者の訴えを「見解の相違だ」と切り捨てたことをあげ、「異論に耳を貸さない強権姿勢だ。異論を『見解の相違』と切り捨てるなら民主政治は成り立たなくなる」と追及しました。
山下氏も、広島の被爆者の「『閣議決定』は(過去の戦争の)過ちを繰り返すもの」との声に向き合うよう首相に求めました。
しかし、安倍首相は自らの姿勢が問われているのに、「累次にわたって国民の理解を得るよう努めてきた」などと開き直るだけでした。
さらに志位氏は、集団的自衛権問題をテーマにした7月の国会論戦で首相が「戦闘地域」での武器使用を認めたことをあげ、「自衛隊が(海外で)戦闘に参加することにほかならない」と追及。山下氏も、これまで政府が「戦闘地域」としてきた場所であっても軍事活動ができるようになると指摘しました。
これに対しても首相は、「戦闘地域」への派兵もあること、その際「武器の使用」もあることを自身が答弁したにもかかわらず、「かつてのイラク戦争やアフガン戦争での戦闘に参加するようなことは決してない」などと根拠もあげずに答弁。「ご指摘はあたらない」「ご指摘は的外れ」などというばかりで、議論をしようという姿勢さえ見せませんでした。
もっぱら軍事で構える安倍政権に対し、志位、山下両氏は平和の外交戦略として、日本共産党が提唱する「北東アジア平和協力構想」を提案しましたが、首相は否定はできないものの、自らの見識を示すこともありませんでした。
暮らしと経済
消費低迷の現実見ず
暮らしと経済の問題でも首相は肝心の問題に答えようとしませんでした。
志位、山下両氏は、4~6月期の国内総生産(GDP)で年率19・5%マイナスを記録した家計消費の落ち込みの大きさを強調。「1973年のオイルショック直後に匹敵する」(山下氏)として、首相の認識を正面からただしました。
ところが、志位氏が「なぜこれだけの家計消費の落ち込みが起きているのか。政府が言ってきた『駆け込み需要の反動』では、とても説明がつかない」と認識をただしても、首相は何の根拠も示さずに「駆け込み需要の反動や天候不順が要因」と答弁。志位氏が「実質賃金が前年比で14カ月連続マイナス」との事実を突きつけても、首相は「まだ賃金の上昇を実感しづらい」というだけ。
こうした首相の態度は、国民の多くが「反対」する消費税10%引き上げをめぐる議論でも変わりません。
山下氏が「消費税を10%に引き上げたら、さらなる実質所得の減少、消費の底割れで、日本経済の土台を崩壊させる」と追及しても、首相は「経済状況等を総合的に勘案しながら、本年中に適切に判断する」とこれまで通りの答弁をくり返しました。
そのうえ、首相は「すべての人々が生きがいをもって働くことができ、何度でもチャンスを与えられる環境をつくっていく」などといって、「生涯ハケン」に道を開く労働者派遣法の大改悪や「残業代ゼロ」の労働時間規制緩和を合理化しました。山下氏が「なぜ、若者から夢と希望を奪う非正規を増やそうとするのか」と反対すると、首相は「レッテル貼りは不適当」などと答えるだけでした。
原発再稼働
規制委は「厳格」と丸投げ
原発問題でも、首相答弁の行き詰まりが際立ちました。
山下氏は、今夏「稼働原発ゼロ」でも電力不足にならなかったとして、「いまこそ『原発ゼロ』への政治決断をすべきだ」と迫りました。
しかし、首相は「電力不足は回避できたが、予断を許さない状況にあった」などとして、「世界でもっとも厳しいレベルの規制基準に適合すると認められた原発は、再稼働を進める」と表明しました。
志位氏が福島県内のすべての原発廃炉を「『オール福島』の願いに応えて、東電に要請する意思があるのか」と聞いても、首相は「事業者が判断を行う」と、まるで人ごと。所信表明演説で約束した「一日も早い福島の再生」との言葉が偽りであるかのような答弁に終始しました。
安倍政権が強行しようとしている九州電力・川内原発の再稼働についても、首相にはまともに答える姿勢は見られませんでした。
専門家から「噴火予知は無理」との意見が噴出していることを志位氏が指摘したのに、首相は「原子力規制委員会が厳格な審査を行っている」とまる投げ。また、九電も過酷事故が起これば19分後にメルトダウンが起こるとしているのに、内閣府がまとめた避難計画の「緊急時対応」には時間はいっさい示されていないと志位氏が追及しても、緊急時対応については、首相は「(計画は)細部まで練られている」というばかりでした。
米軍新基地
「既に判断」と問答無用
沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設について志位氏は、沖縄県議会の新基地反対の意見書(9月3日)や、基地反対派が過半数を占めた名護市議選(同7日)、8割が反対を占める県民世論の現状をあげ、「県民の意思を一顧だにしない姿勢は民主主義を否定するものだ」と追及しました。
しかし首相は、仲井真弘多知事の公約違反の埋め立て承認を唯一の根拠に「既に判断が示されたもの」と述べ、問答無用といわんばかり。議論も拒否して、「民主主義を否定するものとの指摘は当たらない」などと居直りました。
山下氏が「『沖縄の方々の気持ちに寄り添う』というのなら、新基地建設は断念すべきではありませんか」とただしても、答えようともしませんでした。
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集団的自衛権、日本経済と消費税、原発、沖縄米軍基地―どの問題でも首相答弁からはまともに議論しようという意思も能力も示されませんでした。そのこと自体、安倍内閣の行き詰まりを示しています。