「存立危機」発動 国民動員できる
「国民の生命、身体を守らなければならないような時は『武力攻撃事態』と認定すれば、当然、国民保護法は動く」
政府関係者は17日の与党協議会でこう説明しました。同協議会に提出された政府資料にも同じ趣旨が書かれています。
集団的自衛権の行使となる「存立危機事態」の場合は、国民の生命、権利が危険になる場合があり、それは「武力攻撃事態」でもあるから、その認定に基づき国民保護法を発動し国民動員できるという説明です。
国民保護法の中に「存立危機事態」を新たに盛り込むことがなくても、結局は、米国の戦争へ参戦することによって国民保護法が発動し、多くの場合、国民も動員され、それに向けた日常的な訓練が始まる危険があることを認めたものです。
一方で、政府関係者の説明は、「存立危機事態」と「武力攻撃事態」の多くは重なるが、重ならない場合もあると示しました。
日本に対する「武力攻撃から国民を守る」ことを建前とする国民保護法と、他国での武力行使への支援で海外派兵することになる「存立危機事態」を結びつけないのは、重大な意味を含みます。「存立危機事態」を「武力攻撃の危険の場合に限定しない」ということにして、「経済的混乱」など軍事的危機より広い「危機」で参戦する狙いです。
「経済的混乱」も武力行使可能に
昨年7月の「閣議決定」は、集団的自衛権行使の要件として、他国への武力攻撃により「国民の生命や権利が根底から覆される明白な危険」があることを盛り込みました。
「明白な危険」かどうかの判断基準について、横畠裕介内閣法制局長官は「攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、我が国に戦禍が及ぶ蓋然(がいぜん)性、国民が被る犠牲の深刻性などから客観的に判断」と説明してきました。「戦禍が及ぶ蓋然性」とは、放置すれば確実に日本に軍事的危機が及ぶ危険という意味、と思われました。
ところが横畠長官は重大な答弁をしています。
「センカのカが『火』(戦火)と書く場合と『禍』(戦禍)と書く場合がある。『火』と書く場合は、我が国が砲撃を受け、ミサイルが着弾することがイメージされるが、『禍』の場合は、砲火を浴びる状況でないものも含まれる」(昨年11月6日、参院外交防衛委員会)
戦禍の「禍」だとしたら、軍事的危機に限らないというのです。
中東・ホルムズ海峡に機雷が敷設され「経済的混乱」が発生した場合、集団的自衛権に基づく武力の行使が可能だ―。横畠答弁は、こうした安倍首相の固執する主張を受け入れるものになります。
集団的自衛権行使となる「存立危機事態」を、武力攻撃の危険を前提とした国民保護法に位置づけない―。政府の“不自然な”説明は、軍事的危機より幅広い「危機」で集団的自衛権を行使する狙いをいっそう明白にしました。(中祖寅一)