主張

大学と国旗・国歌

許されぬ学問と自治への介入

 安倍晋三首相が、国立大学の入学式や卒業式での国旗掲揚や国歌斉唱について「正しく実施されるべきだ」と発言し、下村博文文部科学相が各大学に「要請したい」などと言い出したことに、大学関係者が批判の声を上げるなど問題が広がっています。首相らの発言は、憲法が保障した「学問の自由」や「大学の自治」を踏みにじるもので看過することはできません。

教育内容の自由を侵害

 首相発言は先月9日の参院予算委員会での次世代の党の議員の質問にたいする答弁です。下村文科相も「各大学において適切な対応が取られるよう要請したい」と答弁し、記者会見では「学長が参加する会議で要請することを検討する」とまで表明しました。

 憲法23条の「学問の自由」は、学問研究の自由、研究成果の発表の自由、教育の自由を含んでいます。国家権力によって学問の自由が侵害された過去の歴史への反省にたって明記されたものです。

 それを担保するために保障されているのが「大学の自治」です。大学は、その運営も教育研究の内容も、自主性、自律性が尊重されなくてはなりません。

 2006年に第1次安倍政権が改悪した教育基本法でも「大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」(第7条)としています。どんな卒業式や入学式にするかも大学の自治に委ねられるべきものです。

 文科省は、国立大学86校の卒業・入学式での国旗掲揚・国歌斉唱の実施状況を調査していました。そのこと自体、大学の自治への介入に道を開くものです。小中高校への強制も「調査」から始まったことを想起すべきです。

 国立大学が「税金によって賄われている」から実施させるべきだという首相の答弁は、とんでもない暴論です。国が大学に財政支出するのは、国民の教育を受ける権利を保障するためだからです。

 文科省は、政府のいう「大学改革」への取り組みに応じて、交付金を重点配分する姿勢を強めています。財政上の不利益を懸念して大学が文科省の「要請」を受け入れ、事実上の強制になる危険があります。私学助成を理由に、私立大学にも国旗・国歌の強制が広がりかねません。

 国旗・国歌法の施行を理由にする下村文科相の議論についていえば、1999年の法制定当時、小渕恵三首相らが「強制はしない」と繰り返し答弁していたことにてらしても通用しません。

 「日の丸」はかつて侵略戦争のシンボルとされ、「君が代」は国民主権の原則と相いれない内容をもつ歌です。戦前の大学は、天皇制の専制支配と侵略戦争のもとで、良心的な研究者が大学を追われ、前途ある学生が戦場に動員された痛苦の歴史があります。その大学に「日の丸」「君が代」を強要することは、日本社会全体に国家への忠誠を誓わせる先取りといわなければなりません。「戦争する国」づくりと一体の危険な動きです。

安倍首相は発言取り消せ

 大学関係者が、大学の研究や言論が国家権力に抑圧された戦前の歴史と重ねあわせ、首相らに抗議の声を上げているのは当然です。

 安倍首相と下村文科相は大学の自治と学問の自由を顧みない自らの発言を取り消すべきです。