主張

商品先物規制緩和

消費者を市場の犠牲にするな

 「世界で一番企業が活動しやすい国」を売り文句に、国民生活を守るさまざまなルールの破壊を進めている安倍晋三政権の規制緩和のなかでも、最悪の部類の一つといえるのではないでしょうか。商品先物取引の不招請勧誘(要請していない顧客にたいする電話や訪問による勧誘)の解禁です。

悪質事業者にツール

 商品先物取引は、貴金属や石油、ゴム、穀物などの商品の将来の価格と現在の価格の差を使ってもうける投機的な取引です。商品の価格はきわめて大きく変動します。はじめの投資金額以上の大きな損失を被ることもあります。プロの世界であり、素人が手を出せるような取引ではないのに、「必ずもうかる」という詐欺的でしつこい勧誘が被害を広げました。被害額が大きいために、家庭崩壊や自殺に追い込まれる悲惨な例もあり、「消費者被害のなかでも最もひどい被害」ともいわれます。

 被害がピークとなった2004年以降、2度にわたる法改正でさまざまな規制をおこなったものの被害は防げませんでした。望まない顧客に業者が接触し悪質な勧誘をすること自体を禁止しなければ商品先物による被害は根絶できないという声の広がりを受け、2009年の法改正で不招請勧誘の禁止規定が設けられました。

 これにより商品先物被害は急激に減少しました。同時に、市場の取引高は3分の1、個人投資家は10分の1に縮小し、音をあげた業界は、不招請勧誘の解禁を政府に働きかけます。

 安倍内閣は13年6月に閣議決定した「規制改革実施計画」で勧誘の禁止事項の検討を明記しました。商品先物取引の主務省である経済産業・農水両省は、不招請勧誘解禁の省令変更を行い、6月1日から施行するとしています。

 この動きには政府の消費者委員会も「詐欺的投資勧誘を行おうとする悪質な事業者に格好のツール(道具)を提供する」と重大な懸念を表明しました。今年1月5日に商品先物業界5団体が開いた賀詞交換会で、経産省審議官は不招請勧誘解禁について、「一歩踏み出すときに大きな問題を起こしてしまうとイメージ的にはさらに悪化しかねない。慎重に運転を」と要請したといいます。消費者被害再燃の大きな危険性を政府も自覚しながら、進めることなど許されません。

 日本弁護士連合会、主婦連合会、日本消費者連盟などの諸団体は、省令変更の撤回と不招請勧誘禁止の強化を強く求めています。日本共産党の倉林明子参院議員は国会で「健全な市場活性化に逆行する被害が拡大する前に省令は廃止すべきだ」と求めました。

不健全な市場慣行ただせ

 不招請勧誘解禁について政府の規制改革会議での議論は、「経済成長のためには国際競争力をもつ商品先物取引市場が必要だ」という一面的なものです。

 個人投資家を市場の「えさ」のようにしてきたこの市場の不健全な体質をただすのではなく、市場活性化のためには顧客保護を後退させても仕方がないという姿勢です。

 国民の不幸や苦しみに目を向けないで、まともな「経済成長」などできるはずがありません。商品先物取引の不招請勧誘禁止を維持し、消費者被害の広がりに歯止めをかけるべきです。