ランク分けが根源
現在、地域別最低賃金は、全国を4ランクに分けて引き上げの「目安」額を発表する方式をとっています。このやり方は、明らかに破たんしています。毎年、都市部と地方の賃金格差が広がりつづけ、もはや見過ごせない状況になっています。最低賃金を時給で示す方式になった2001年と現在の格差を見てみます。01年の最低賃金額は、最高が東京都の708円、最低は青森県など7県の604円でした。その差は104円で、高低比率は85・3です。
直近の2014年では、最高が東京都の888円、最低が沖縄県など7県の677円。その差が211円で、高低の比率が76・2に拡大しています。
この13年間で高い地域と低い地域の金額差が104円から211円に倍加し、高低の比率も8割台から7割台に落ち込みました。
いま同じ仕事で1日8時間、月22日フルタイムで働いた場合、高い額と低い額の地域の格差が約3万7千円です。年間にすると44万円。これでは地方から都市に若者が流出し、地域経済が深刻化するのは当然です。
全国を4ランクに分けて「目安」額を示すいまの方式をつづける限り、格差は拡大するだけです。そもそも47の都道府県を4ランクに分ける根拠はありません。
「地域経済に差があるからやむをえない」と政府はいいます。しかし全労連などによる最低生計費試算によると、岩手県で月額約22万7千円、首都圏が同23万9千円であまり変わりません。むしろ現実は、最低賃金のランク分けが、都市と地方の差別拡大の根源になっています。一刻も早く是正する必要があります。
政府は、「最低時給800円、全国平均1000円」を2020年までの目標にしていますが、現行の方式のままだと高低差が400円に拡大するというとんでもないことになりかねません。全国一律の制度に改め、どこの地域でも最低時給1000円以上にすることが急がれています。
「生計費」を基準に
日本の最低賃金は現在、全国平均時給780円です。全国一律で1000円以上が当たり前になっている世界のレベルに比べて異常に低く、最低限度の生活が保障される水準ではありません。なぜ日本はこんなに低いのか。世界との決定的な違いは、最低賃金決定にあたって企業の「賃金支払能力」を考慮していることです(最低賃金法9条)。企業の事情を考慮している国は日本以外に見当たりません。
労働者は働いて賃金をもらって自分と家族の生活を維持しています。それが崩れると、労働力が確保できず社会の生産活動が困難になります。したがってこれ以下の賃金で労働者を雇ってはならないという最低賃金は「生計費」によって決めるのが世界の常識です。
いま日本は「生計費」で最低賃金を決める制度に改めることがとくに重要になっています。低賃金の非正規雇用が労働者の4割に増え、年収200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)が1千万人を超える深刻な事態です。
労働者の多くは経営がきびしい中小企業で働いています。したがって中小企業の「支払能力」を考慮して最低賃金を決める方式では、賃金を底上げしてワーキングプアをなくす役割は期待できません。まさに悪循環です。
労働者の「生計費」を基準に最低賃金を思い切って引き上げることが、内需を増やして中小企業の経営を安定させる好循環をもたらします。労働運動総合研究所は全労連などの最低生計費調査をふまえて、最低賃金の水準は「年額280万円、月額23万円、時間額1483円」とすべきだとのべています。そのさい中小企業にたいして減税や社会保障負担の軽減などの支援策をとるのは当然です。
中小企業支援のためにも、最低賃金は企業の「支払能力」ではなく労働者の「生計費」で決めるという方式に明確にしたほうが、支援策立案の根拠がはっきりしてやりやすくなるといえます。
大幅なアップこそ
全労連、連合ともに最低賃金を当面時給1000円以上にすることを要求して運動しています。中央最賃審での審議は、ことしの春闘の賃上げ2・20%(連合集計)が最低賃金引き上げの目安材料といわれ、昨年の平均16円を上回るかどうかの攻防だという指摘もあります。これでは国民の生活はよくなりません。「アベノミクス」で賃金は上がるどころか物価上昇に追いつかず、実質賃金が下がりっぱなしです。最低賃金の大幅引き上げで賃金全体の底上げをはかることがいま重要です。