安倍内閣が、戦争法廃止の世論をかわそうと打ち出した「1億総活躍社会」―。その中身も不明確なまま、大企業応援の経済成長に向けて、女性や高齢者らを安価な労働力として活用するなど、“1億総働け”社会をめざすねらいが浮き彫りとなりつつあります。

 「若者も高齢者も男性も女性も、困難な問題を抱えている人も、また難病や障害を持った方々も、みんなにとってもチャンスのある社会をつくっていく」

 安倍晋三首相はこうのべ、「新3本の矢」―(1)GDP600兆円(2)希望出生率1・8の実現(3)介護離職ゼロ―を実現すると繰り返しています。しかし、これを実現するための道筋も期限も示されておらず、「政策的裏づけのない望ましいゴールを示しただけ」(「日経」)と指摘されています。

 加藤勝信担当相は、経団連や日本商工会議所の代表らを集めた「1億総活躍国民会議」を立ち上げ、議論を始める方針を示していますが、「労働力確保」「労働強化」のねらいが日に日に鮮明になっています。

 厚労省は、この構想実現に向けて四つのテーマを設定。「希望出生率1・8」や「介護離職ゼロ」と並んで、新たに「全産業の生産性革命」と「生涯現役社会」を掲げました。

 「生産性革命」について塩崎恭久厚労相は「労働生産性の向上と働き方の改革に取り組む」とのべ、過労死を野放しにする「残業代ゼロ制度」の導入など、労働法制の規制緩和による「生産性向上」を明言しています。

 「生涯現役社会」では、労働基準法も適用されない「シルバー人材センター」の利用拡大など、安価で無権利の労働力として高齢者を活用する方針です。

 政府の産業競争力会議でも、成長戦略の柱に生産性向上を掲げ、「働き方に中立な税・社会保障等の見直し」「高齢者の活躍機会の向上」「外国人留学生の就職率引き上げ」など女性、高齢者、外国人労働者らの活用を前面に打ち出しました。

 「新3本の矢」にある出生率をめぐっては菅義偉官房長官が、“子どもを産んで国家に貢献して”と発言し、戦前の「産めよ殖(ふ)やせよ」のような国家優先の発想だと批判を浴びたばかり。労働力確保のねらいについても「女性の活躍とか生涯現役というゴマカシで、若者や女性、高齢者を安上がりの不安定雇用で駆り出そうというものだ」(全労連)と批判の声が上がっています。