主張

リニア新幹線事業

立ち止まらないと禍根を残す

 JR東海が2027年開業をめざすリニア中央新幹線事業(東京・品川―名古屋)のうち、南アルプストンネル工事に向けた「起工式」が今月中旬、山梨県内で行われました。実際の掘削は来年以降ですが、自然豊かな山岳地帯に大穴を開けることに地元住民をはじめ自然保護団体などから不安と懸念・批判の声が相次いでいます。それにもかかわらず、ひたすら事業を推し進めるJR東海の独善的な姿勢が問われています。

「掘らぬと分からぬ」

 JR東海は18日、南アルプスのふもと山梨県早川町でトンネル「起工式」を行いました。リニア事業は昨年10月に国土交通省が認可、昨年12月に品川と名古屋で駅工事などが始動しています。トンネル工事に向けた具体的準備作業は、実験線以外では今回が初めてです。当面は資材置き場を整え、来年3月に「非常口」用掘削に入り、秋にトンネル本体工事を行うことをもくろんでいます。

 リニア事業は品川―名古屋間286キロのうち地下部分が86%を占めるなど超巨大開発事業です。地下構造や地質などは事前に詳しく分からず手探りで掘り進めるのが実態です。掘削で発生する大量の残土の置き場もほとんどは決まっていないなど、沿線の自然や観光、暮らしに深刻な被害を与えることに不安と懸念が広がっています。

 とりわけ南アルプストンネルは、リニア事業のなかでも自然を壊す被害の深刻さ、事業の危険性について強く警告されている区間です。この一帯の豊かな生物多様性は国際的に注目され、昨年はユネスコ(国連教育科学文化機関)のエコパーク(生物圏保存地域)にも指定されました。数少ない自然の宝庫に長大トンネルで大穴を開けることは、世界的な自然保護の流れにも完全に逆らうものです。

 JR東海も南アルプストンネル予定地を水源とする大井川への影響を認め、水量が毎秒2トン減少すると試算しています。下流域に住む65万人の生活・産業用水の取水量に匹敵する膨大な量です。JRは導水路やポンプで水を川に戻すと説明しますが、水質や水量が保てる保証はまったくありません。

 地表から最大1400メートルの深さを掘る南アルプストンネルは前例のない「最難関」工事です。地層や水脈も複雑に重なっているため、突然の出水や岩盤崩落の危険も指摘されています。JR東海自身が「掘らないと分からない」と認めるほどの危うさです。難工事で行き詰まり、現在10年とされる工期が長引き、JR東海の対応が行き詰まった場合、巨額な税金が投じられかねません。「建設ありき」で突き進むのはあまりに無謀です。

根本から問い直すとき

 リニア中央新幹線への疑問は深まるばかりです。人口減少に向かう時代に最終的に9兆円(品川―大阪)もかける大型開発はお荷物にならないのか。トンネル内の不測の事故への対応は可能なのか。膨大な電力を消費するリニアは省エネルギーに逆行しないのか。

 いま求められるのは、国民の異論や疑問に耳を傾け、事業の是非を根本から問い直すことです。リニアを「国家プロジェクト」としてJR東海を後押しする安倍晋三政権の姿勢は国民の願いに反します。将来にとって「負の遺産」になりかねないリニア事業は凍結・中止することこそ必要です。