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【本の紹介】『なぜヨーロッパで資本主義が生まれたか 西洋と日本の歴史を問いなおす』関ひろの
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【本の紹介】『なぜヨーロッパで資本主義が生まれたか 西洋と日本の歴史を問いなおす』関ひろの

2019-06-27 23:05
     
    『なぜヨーロッパで資本主義が生まれたか 西洋と日本の歴史を問いなおす』関ひろの NTT出版 2016年 
    を読んだ。
     
    世界を覆い尽くしている資本主義経済の特徴を経済、金融、思想、歴史、文化など総合的な観点から分析している良書だ。
     
    銀行の信用創造と金融権力の影響についても記述されてる。
     
    一方で、資本主義を作りだした原動力としてプロテスタントの労働的価値観の影響力を過大評価している伝統的な学説の影響が強くみられる。
     
    読後の感想の結論としては、
     
    ・人類は資本主義経済について深く理解できてこなかった。その原因は様々な歴史上に登場した市場経済システム(古代ローマ帝国、中華帝国、イスラム帝国、江戸時代の日本など)と比べて資本主義の最大の特徴である銀行によって行われる債務貨幣の創造、つまり信用創造の仕組みと影響が経済学と歴史学の分野で研究されてこなかったためである。
    研究されなかったのは、世界最大の利権である通貨発行権を独占してきた国際銀行権力が学問とマスコミを管理してきたからだ。
     
    資本主義経済の暴走を止め有効に活用する解決策は、資本主義の特徴の正確な認識と、資本主義と同時に発展してきた民主主義の価値を強める事にある
    そこから通貨発行権、貧富の格差、精神疾患、科学の暴走、価値の再構築、経済管理、教育、政治政策などの諸問題が解決される
     
     
    以下参考になったページ箇所を青文字で、私の意見を黒文字で記載。
     
     
     
    「P40 ギリシャ哲学とヘブライの一神教は水と油であるためにキリスト教文明は絶えざる混乱、分裂、危機に苦しむことになりました。」
     
    知と信の分裂は西洋文明の特徴。
    知(知性)と信(感情)は統合されなければならない。
    そうでなければ科学技術が高度に発達した21世紀は科学などの知か、宗教などの信のどちらかの暴走により人類は破滅的な災厄を被る可能性が高まる。科学技術を管理するには信が科学の適切な使用方法を心得ておかなければならない。つまり道徳と真理の融合が必要だという事だ。
     
     
     
    P65「十戒は最初の国際法の試み」
    十戒は人間なら誰もが同意できるような普遍的な道徳しか書いていない。
    それを神の戒律として布告したのは、国際的な弱者の立場にたったユダヤ人の立場を強国から守るためだ
     
    ユダヤと国際法と道徳的普遍性という原理が既に紀元前の十戒の時から生じていた。それが20世紀の世界人権宣言の民主主義と人権、「自由、平等、友愛」の布告にまで連なっている。
     
     
    P88 「世界史という観念は消滅する」
    終わったのは歴史そのものではなくヘーゲル哲学的な世界史という観念。ヘーゲルは世界史を人間精神の発達過程として論じている。その精神の発達過程は近代欧州文明で頂点に達した、という欧米中心主義の観点。その普遍世界史という観点が終わった

     

     
    著者の関氏はハンチントンの文明の衝突的な観点からフクヤマやカントが述べた普遍的な世界史の観点を否定している。
    しかし私は世界人権宣言や民主主義は世界の市民に普遍的な価値観として受け入れられていると感じる。民主主義と人権の観点からならば普遍的な人類の歴史を描くことは可能である。むしろ現在こそより普遍的な価値観として広まってきている。
     
     
    P96 『国家の在り方をめぐって、エリートの垂直型統治と人民の自治と連携を原則とする水平型統治の衝突が始まりつつあります。これは従来の右翼左翼の図式で理解できるものではない』
     
    世にいう99%と1%の対立の図式。
    エリート統治に反発するポピュリズムといわれる政治勢力の台頭はその表れです。
     
     
    『P109 自然の征服支配は聖書の思想 旧約聖書の創世記には 天地を創造した神は「われわれをかたどり、われわれに似せて、人を造ろう。そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう」と言われたとある』
     
    これが欧米で人間中心主義の人権思想が発展した背景だ。
    生類憐みの令に代表される仏教思想では、一神教に基づいて人類を万物の霊長と定義する人間中心主義的な人権思想は発展しなかった。一神教から神の概念を取り除いたものがヒューマニズムといわれる現在の人間教である。
    『P114 政治体制としてデモクラシーが望ましい理由は、この体制は人間に自分が過ちやすく脆弱な存在であることを自覚させるからです』
     
    修正可能なのが民主主義の優れているところだ。
    現在の日米欧の西側の民主主義も強い自己不信に陥っており、試行錯誤の中で軌道修正をしようとしている。
     

    P123)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神について』

     

    関氏はウェーバーの述べたプロテスタントの生活と労働において厳格な規律を重視する方法的合理主義が資本主義を作りだしたという説を紹介している。

    資本主義とはたんなる経済現象ではなく根本的には精神史的な現象だと考えてきたと。

    しかし、この説には疑問がある。

    プロテスタントの労働的価値観が勤勉を作りだし、それが資本主義の精神になったというのは因果関係の取り違えである。

    利子を認めたプロテスタントの価値観が銀行による信用創造システムを許容し、それによって社会が銀行通貨によって借金漬けになった。

    これが資本主義の勤勉と合理化と売り上げ至上主義を作りだし伝統主義を崩壊させた。

     

    欧州で資本主義の精神が生まれた原因には、プロテスタントの労働と職業の考え方に因があるのではなく、プロテスタントの利子を許容した考え方に因がある。

    その結果、銀行の信用創造により借金漬けになった市場経済は、借金の返済のために勤勉と合理化が形成され継続的な経済成長を続ける資本主義経済ができた。

    つまり資本主義の精神とは、銀行通貨による借金によって作られた精神だ。

    銀行への借金返済のために勤勉と時間厳守と合理化と売り上げ拡大を強制された債務返済の精神なのである。

    これが銀行の信用創造システムを取り入れて銀行通貨を取り入れた国(日本、台湾、韓国、北米、中南米、東南アジア、インド、改革開放後の中国など)が、文明の違いに関わらず経済成長をする原理である。

    資本主義の最大の特徴は銀行通貨による債務貨幣の創造だ。

    国際銀行家によって通貨発行権が政治から奪われていく過程でその仕組みは成立した。

     

    P128 競争・自己実現への強迫 アングロサクソン的なデモクラシーにより身分制がなくなった競争的な個人主義的な社会、それがストレス過多社会となり、それに耐えられない人間が出てくる。そのような資本主義の文化が現代の精神疾患の背景にある。実は社会的要因を個人が内面に取り込んだ結果として精神病になることを現代の精神医学は理解していない』

     

     

     

    上記の説は資本主義が暴走し民主的価値観を圧倒してしまう事で、人間が商品化してしまうという現代社会の病理をついている。人間中心ではなくマネー中心にいつのまにやら変化してしまい、ブラック企業蔓延や拝金主義などが横行し人間疎外が起きている。

     

     

    『P134 資本主義を経済学として成立させているのは経済学ではなく会計学。貸借対照表と損益計算書で資本主義の経済は成立している。経済学そのものは資本主義の解明にもコントロールにも役立っていない。中世の西欧ではスコラ神学が教会の権力を正当化していたが、経済学はそれと同じ。しかし経済学が資本主義を正当化する神学だからこそ、経済学には資本主義の秘密を解く鍵が隠されている。』

     

     

    確かに主流経済学の近代経済学と、反体制の主流経済学のマルクス経済学を調べると信用創造の仕組みとその向かい先の影響が無視されている。

    実はそこに資本主義の秘密があった

    資本主義や社会主義を正当化するスコラ神学と化してきた主流経済学が覆い隠してきた資本主義の秘密を解いたのが、通貨発行権と信用創造量の観点から経済を分析したリチャード・ヴェルナー氏の経済理論だ。

     

    また山口薫教授の公共貨幣の経済理論も債務貨幣が必然的にもたらす利子の弊害などの観点からこの資本主義の秘密を分析し解明されている。

     

     

    『P159 通貨発行権を私物化した銀行 

    通貨発行権を独占していた君主の悪用のあるべき解決策は国が持つことだった。しかし近代社会では君主でも国でもなく私企業の銀行が通貨発行権を持つことになってしまった。その嚆矢が大銀行が管理する17世紀末の英国のイングランド銀行の誕生だ。つまり中央銀行は私利を図って私的に信用を創造する銀行の特権を守るための政治制度。今の銀行は国家をくまなく管理する政治的主権者であり、しかも金融資本のグローバルなカルテルのかたちで、人類全体の主権者になっている。このグローバルな金融支配が21世紀の現実だ』

     

     

     

    『P166 「見えざる社会システム」としての通貨 

    ダグラス以前の古典経済学と現代の近代経済学では経済は供給と需要、生産と消費だけで捉えられていて、貨幣はそれを仲介するだけの商品の売買を円滑にするための媒体に過ぎないとされていた。ところがダグラスは銀行の問題に行き着いた。ダグラスは近代経済の中心に貨幣の問題があることをおさえた。貨幣を経済社会を組織している見えざるシステムとして理解し分析した。しかし20世紀の経済学の主流派はこの貨幣の問題を無視し続け、19世紀の時代錯誤な発想を引きずった。…』

     

     

    つまり貨幣を創造する銀行の信用創造の影響が主流経済学によって無意識化されてきたということ。マネー研究抜きの経済学なる代物がつくられ、世界に拡散されてきた。それに最大限貢献してきたのがノベール経済学賞ことスウェーデン中央銀行賞だ。

     

     

    『P167 銀行は私企業として私利を図って信用を創造している。日本銀行も株式も発行している私企業。私企業が自分のソロバン勘定で国民生活を左右する通貨を発行していることが根本問題。そのために好況と不況が循環する。これは自然現象などではない』


    銀行業が通貨発行権を持ち、民主政治がもっていないために、社会全体が銀行の経営状態や財テクに翻弄される経済システムになっている。中央銀行は各民間銀行を統括し、景気変動を人為的に作りだしてきた。世界恐慌も日本のバブルもリーマンショックも同じ構図だ。

     

     

    『P168 公益事業として政府通貨を発行 

    ダグラスが行った政策提言は、第一に銀行の私的信用創造が経済の歪みや不均衡の根本原因なので政府が利子無しで社会や企業に供給する。1930年代に高橋是清が国債の日銀直接引き受けのかたちで時事上の政府通貨の発行を行った。ドイツでは国立銀行のシャハトが労働財務証書というかたちで政府通貨を発行。アウトバーン建設などによって完全雇用に近い状態を実現。問題はこの二人が行ったことは金融独裁だった。経済運営は高橋やシャハトの胸三寸になる。いかに民主的に通貨を発行できるかの問題が残っている』

     

    『P169 国民配当(ベーシックインカム)の支給 ダグラスのもう一つの提言は政府通貨とワンセットになっているのが基礎所得を全国民に支給する国民配当という政策。重要なのは通貨改革の一環として所得補償を論じていること。』

     

    政治通貨を民主的に発行する案として国民配当(ベーシックインカム)は有効な政策だ。特定の利権に基づかないし、市場経済をゆがめることもない。人々は受け取ったお金で自由に欲しいものを購入する。政治通貨の下で健全に経済が発展し、国民生活を豊かにする。

     

    『P182 プラトン=ヘーゲルの国家論 

    プラトンに言わせると民主制のアテネは盲目の欲望しか知らない愚民が統治している無秩序な国家。真理を把握した哲人王が愚民を統治している国家が正義の国家。ヘーゲルは市場経済で動いている近代市民社会のことを精神の動物界と呼んでいる。人々が盲目的な欲望、利己主義で動いているこの社会は理性的な官僚に統治される必要がある。国家は知的エリートである官僚や政治家が理性によって統治するべきであり、愚民は市場経済の中でアップアップしているだけ

     

    古代ギリシャの時代から論じられてきた民主制と愚民化の問題。

    この問題の解決策は民主主義の原理を理解した市民の哲人化を実現する方法を作ることだ。

    そうするには民主的に哲人化するための思考モデルが必要になる。

     

     

     

     

    『P184 議会制租税国家は銀行が管理している通貨秩序に従属しておりそれを補完している。日本でも財務省は日銀の下働きでその日銀は金融資本の国際カルテルの指令で動いている。今や各国の中央銀行と財務官庁は国際金融カルテルの植民地における出先機関』

     

    国際通貨権力の実体について指摘。国際金融カルテルの元締め組織はBISとIMFである。

     

     

    『P201 江戸時代の日本は事実上市場経済だった。土地の売買だって限られていたけど江戸期に既にあった。市場経済、契約の観念、土地の売買は事実上ある程度は可能だった』

     

    しかし江戸時代の市場経済には銀行通貨による信用創造システムがなかった。

    また鎖国により資源が頭打ちだった。

    江戸時代の市場経済は高度に発展していたとはいえ近代の経済システム(資本主義)のように経済成長を継続できず頭打ちになった。

    その原因は需要を生産力の発展に結び付ける信用創造システムがなかったことと、生産量を拡大させる資源を制限させた鎖国に原因がある。

    江戸時代は需要側、供給側の両方に経済成長の面で制限があった

     

    『P223 鎖国をどう評価するか 

    鎖国は幕府が16世紀以来の欧州の植民地主義の脅威を的確に認識して講じた対抗策、防衛策だった。適切で効果的な政策を確立した』

     

    この関氏の鎖国の高評価には疑問を感じた。

    北朝鮮のように情報を徹底的に管理し現体制を維持するには鎖国は有効だ。

    徳川幕府も同じで自らの体制を維持するために鎖国を行った。

    鎖国は日本の発展を様々な形で制限させた。

    その結果、ペリーが浦賀に来てから日本は植民地になる一歩手前まで追い詰められた。

     

     

    『P236 神話化された明治維新 

    人は道に迷ったら一旦引き返して、どこで道を間違えたかを確かめる。そういう意味で我々は歴史の時点を幕末にリセットして日本の歴史を再考する必要がある』

     

    日本の歴史がどこで分かりにくくなったのかを再考しなければならない。幕末に外国勢力と結びついた秘密結社が日本の権力中枢に作られた。現在の日本の闇の根源だ。今、研究が求められている分野である。


    『P252 日本の位置 

    資本主義の隠れた問題の表面化。第一に科学的知識の資本化による資源と環境の危機。第二に貨幣の抽象的構造的な暴力がある。第三に競争的個人主義につきまとう心因性精神疾患の問題』

     

    関氏が指摘される3つの問題は民主的価値観を資本主義の上位におくことで解決できる。

    1の科学的知識の資本家による暴走だが、儲け第一主義の資本主義的価値観を規制するために、民主的価値観を強める。

    2の貨幣の抽象的構造的な暴力だが、貨幣の民主化、つまり政治による通貨発行権の管理、公共貨幣の発行によって解決される。

    3の競争社会における心因性精神疾患の問題だが、人間の普遍的な良識に働きかける民主的な価値観によって、資本主義的な競争過剰、優勝劣敗によるノイローゼなどの精神疾患は解決される



    『P273 欧州では19世紀までに教会の教えに基づく義務は消費の快楽と生産の工場規律に分解した。義務は人間の生を方向付ける。だが欧州人は生の方向付けを見失ってしまった』

     

    この科学知識の発展に伴う従来の宗教の世界観の否定によって生じたニヒリズムの問題は未だに解決されていない。

    何の義務が必要なのか価値の再構築が必要だ。

    それは発展・修正する科学の世界観と無理なく融合する価値観でなくてはならない。

    このニヒリズムの克服、つまり価値の喪失と真理との融合との問題も、民主主義の原理によって解決される。


     

    (記事終了)

     

     

     

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    ■操作される日米欧の自由民主制(資本主義経済と民主政治)のモデル



    ・現在の自由民主制の欠陥を克服し、民主主義の完成を目指す理想の社会モデル(下の図)

     

     

    ・上記の全体像の詳しい図解の説明はこちら

    <リンク>【経済版 図解のまとめ】

    <リンク>【政治版 図解のまとめ】

     

     

    ■日米欧の自由民主制の隠されてきた仕組みについての詳しい解説は

    こちらの本をお読みください。

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    <リンク>頂いた書評の一覧 『世界を騙し続けた[詐欺]経済学原論』 『洗脳政治学原論』

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    社会的矛盾の根本である政府と通貨発行権の分離と

    軍事支配を無くす社会を目指しています。

     

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