史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK) [ムック]
飲茶 (著), 板垣 恵介 (イラスト)
現在読んでいる上記の本は、欧米を代表する古代ギリシャから現代までの31人の哲学者の思想を、わかりやすく、かつ面白く解説してくれる大変ありがたい本だ。
中でも古代ギリシャで価値相対主義がはびこり、真理が軽視され民主制が腐敗したことを批判したソクラテスについて述べられている内容に大いに共感したのでご紹介。
この問題は、現代の民主主義を考える上でも大変参考になるからだ。
(史上最強の哲学入門より転載)
・実際のところこの「人それぞれ」の相対主義は、ある困った弊害を生み出すことがある。
それは、「人それぞれで」、絶対的な真理なんかないんだから、そんなもの目ざさなくてもいいんだ」となって真理を追い求める熱い気持ちを失ってしまうことだ。
・相対主義の考えを推し進めて堕落してしまうと
「何事も絶対的に決められないんだから、適当でいいんじゃなーい?」
とさじを投げてしまい
一生懸命考えることを放棄してしまう可能性があるのだ。
それは特に民主主義の場合は致命的である。
民主主義では基本的に投票という「多数決」が重視されているわけだが、多数決が有利に働くためには事前に人それぞれの正しさや価値観や信念をぶつけあって議論し尽くしている必要がある。
そうして初めて投票という多数決は「おさまるところにおさまるように」機能する。
だが、みんなが「正しさ」や「こうあるべき」などの「自分の考えを決めるための価値観」を持っていなければ、多数決は有効には働かない。
結局のところ、みんながなんとなく多数決に参加するわけだから、クチのうまい雄弁な政治家、すなわち「もっともらしく話をするだけの扇動政治家」の意見ばかりが採用されるようになっていく。
つまり民主主義は、その場のノリで物事や権力者が決まる無責任な衆愚政治へと成り下がってしまうのである。
紀元前400年頃の古代ギリシャ。
この古代の民主主義国家においても、同様のことが起きていた。
・そんなどうしようもない衆愚政治の国家に鉄槌をくだす男が現れる。ソクラテスである。
・ソクラテスは「○○って何ですか?」と政治家に質問し続け、相手がボロをだしたら反論しまくるという戦法で、偉い政治家たちを次々と論破していったのである。
・それは、ソクラテスが相対主義を是とせず、絶対的な価値、真理といった「ホントウの何か」を人間は追求していくべきだ、という熱い信念を持っていたからである。
彼は「価値観なんてひとそれぞれさ」を合言葉にホントウのことを追求しない世の中、見せかけだけの言葉で満足してしまっている世の中が許せなかった。
・そんなソクラテスは、例の反則技で相対主義の連中をコテンパに打ちのめしたあとで、街の人々にこう問いかけた。
「ホントウに正しいこと、ホウトウの善とは何か?偉い政治家たちは、それをさも知っているかのように雄弁に語っていたが、実のところ何もわかっていなかった。もちろん、私も全然わかっていない。じゃあ、そもそもホントウの善っていったいなんだろう?」
・彼は「私は真理について何も知りません。」と自らの無知をさらけ出し、「だから一緒にそれを考えようよ」と道行く人々に話しかけたのである。
・結局ソクラテスは政治家たちから疎まれ、「若者を堕落させた罪」で裁判にかけられ死刑を宣告されてしまうのである。
・しかしソクラテスは逃げなかった。
・なぜなら、ソクラテスが自ら毒を飲む行為とは、
「この世界には命を賭けるに値する真理が存在し、人間は、その真理を追求するために人生を投げ出す、強い生き方ができるということ」
の確かな証明であり、それがその場にいた若者たちの胸に深く刻みこまれたからだ。
(転載終了)
古代ギリシャでは、奴隷を除く市民による民主主義のもとで「人それぞれ」という価値観が蔓延し、価値相対主義が猛威をふるっていた。
その結果、その場のノリで物事が決まるような悪しき衆愚政治に陥っていたという。
これは、様々な意見の自由を認め合うという、民主主義の美徳な部分も、行き過ぎれば悪しき相対主義に陥ってしまうという例である。
長所が短所になってしまったのだ。
この事は、現代の日本や欧米社会にも当てはまる。
元々日本は、強力な宗教的価値観が存在しなかったので、相対主義がなじみやすい風土であった。
それが日本が比較的スムーズに民主主義を取り入れることができた理由の一つだろう。
しかし、多様さを認め合う民主主義には陥りやすい欠点がある。
「真理」を「無意識化」させやすいということだ。
宗教国家であればそうはいかない。
日々、真理を強制されるからである。
真理が意識化されず、無意識化された相対主義の社会では、上記の本でも述べられているように
その場の空気や雰囲気でものごとが決まりやすくなる。
「ホウトウの事」を尊重する姿勢がないのだから
・偏見
・権威主義
・エゴイズム、ミーイズム
が蔓延する。
人間は信じたいことを信じやすい性質をもっているためだ。
しかし、民主主義である以上、真理という概念は実は避けて通れないものなのだ。
民主主義とは複数政党制の選挙で決められる政府が権力を持つ体制のことである。
選挙があっても一党独裁体制では、民主主義とは言わない。(北朝鮮などは朝鮮民主主義人民共和国と、民主主義をつけているが、当然ながら民主主義ではない。)
複数政党制のもとでは、投票する政党を選ぶ権利を市民は必然的に得ることになる。
つまりどの政党がどのような政策を唱えているのか、そして社会がどのような状況にあるのか「知る権利」が必ず発生する。
このようなことは、民主主義以前には無かったことだ。
それ以前の体制では、農民は農業を、商人は商業だけを行い、政治について考えることはなかった。
政治は武士の役割だった。
ところが民主主義になり選挙権が与えられると、市民には自由、平等、友愛などの諸権利とともに、社会についての真理を得る権利が発生するのである。
しかし、真理が無意識化された相対主義色の強い民主主義では、この権利は悪い方向に作用する。
考えるのが面倒くさいから、権威や声の大きな者の意見を鵜呑みにするようになる。ホントウの事を尊重しないなら、自らのエゴイズムや利権、幻想で投票を考えるようになる。
声の大きなマスコミ、学術機関などの権威筋、利権をもたらす企業、現実を歪め幻想をもたらすカルト宗教などに大きな影響を与えることができる国際金融軍事権力が民主主義を操作しやすい社会がこうして作られる。
「ホントウの事」を追求しない悪しき相対主義。
これこそ現在の日本の民主主義が陥っている宿痾ではないだろうか。
確かに民主主義において真理を危険視するのには一定の理由がある。
歴史を見れば真理を唱えた勢力が独善的な行動をし、多くの災厄を人類にもたらしてきたからだ。
真理は独善やエリート主義と結びつきやすい性質がある。
だから、「真理」抜きの自由、平等、友愛、つまり悪しき相対主義に基づく民主主義が普及している。
しかし、民主主義おいて真理は必ず発生する社会的権利である。
選挙制度がある以上、無くそうと思っても無くならないのだ。
そうなるとどうなるか。
真理を与える側と与えられる側に分かれるのである。
与える側は、マスコミや学術機関に大きな影響を与える欧米の国際金融軍事権力。
与えられる側は、我々一般市民。
このような構図に行き着くことになる。
真理を意識化させることは、真の民主主義を実現する上で必要なことだ。
そのため真理を暴走させ独善に陥らせない仕掛けが必要になる。
その役割を担うのが、他の民主主義の諸権利である自由、平等、友愛である。
真理、自由、平等、友愛のどの権利も、肥大化すれば、他の権利を圧迫する。
真理が肥大化すれば、認識能力エリート主義になる。
自由が肥大化すれば、無政府状態、弱肉強食になる。
平等が肥大化すれば、自由や真理を奪う悪平等になる。
友愛が肥大化すれば、排外主義になる。
真理を無意識化させ、自由、平等、友愛を操作し肥大化させ望む方向に誘導する。
これが民主主義における社会操作の基本である。
肥大化を抑止し、誘導されないようにするには、各権利をバランスさせなければならない。
この民主の各権利をバランスさせることで、
「誰もが支配されない社会を目指す」
※人間は自由で平等である、という近代民主主義の根本規範である人間の尊厳を、社会で表すとこうなる。
ソクラテスの時代から問題提起されていた、真理を「無意識化」した悪しき相対主義の民主政治は、現在の日米欧でより巧妙かつ大規模に展開されている。
21世紀は真理を「意識化」した健全な相対主義の民主政治に向かう原理を確立しなくてはならない。
真理を軽視した無責任な民主政治のままでは、日本を滅ぼしかけた311原発地震問題、911テロやイラク戦争を引き起こしたアメリカの民主主義のように、大きな災厄を人類にもたらし続けるだろう。
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