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パンは裏切らない 1 たかなしみるく
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パンは裏切らない 1 たかなしみるく

2013-07-28 16:00

     「うちさ、みちゃんのさ、ブログ読んでるよ。」

     「あ、ほんとに。ありがとう。」

     「良いの?」

     「え?」

     「良いの?好きって言わなくて。」

     「え?」

     「このままで良いの?」

     「いや、好きかどうかも、あれだしね…余裕とか、ないし。」

     「そっかー。」

     

    そっと、ホーム画面に切り替えて、携帯をベッドに投げる。


    ――「♪頭の中の僕が 我慢できない声で バランスが崩れても 誰も見て見ぬ振りさ。」

    28日目の月/0.8秒と衝撃。)



    「じゃあ、明日13時に!」


    20135月某日。13時に。京王線明大前駅の、改札前に、はるちゃんは、いた。


    一通りの挨拶を終えて、一頻り昔の空気を嗅ぎ切った。ここしばらく、はるちゃんとはメールでやり取りしていたので、「物凄く久しぶりに会った感じ」と言う感じは、あまりしなかった。周りの学生たちが飲み会の時間を打ち合わせている会話が聞こえるような時間帯に、それを聴きながら、あたし達は井の頭線に乗って下北沢まで出て、はるちゃんに連れられて、カフェバーに入る。

    あたしは、大学の喫煙所で拾ってきたライターで、煙草に火をつけ、煙を吐いたあとに、はるちゃんの方をちらっと見た。彼女は携帯をずっと弄っていた。バイトのお兄さんがグラスを2つ持って、こっちにやってきた。なんとなく、3年ぶりの再会に乾杯をして、なんとなくビールをごくごくと飲んだ。おいしい、単純に。おいしい。

    はるちゃんは、自分の脳内からうまく言葉を選び出すようにして、あたしに色々と質問をしてきた。どれもこれも、差し障りのない範囲内の会話で留まった。あたしが話すと、はるちゃんは「うんうん。」と笑顔で返してくれる。優しいのだけど、でも何処かその笑顔になにか引っ掛かるものを感じる。


    ――作られたような、でも作られていないような、笑顔。


    「でもまあ元気にやってますよー。」


    と、あたしが言ったか言わないかぐらいで、

    「みちゃん、ごめん。」


    急に、はるちゃんはつぶやいた。


    「ごめん!みちゃん、ごめん。」

     「え。何、なんの話?」

     「さっき、歩道橋で嘘ついた。」

     如何せん話題の振り方が唐突だ。彼女の心理状況に追いつけない。彼女はあたしの状況判断を待たずして、いきなり泣き出した。

     「いや、まあ、え?何?」

     「だから、どしたの。嘘って?なんのこと?」

     「みちゃん…。」

     「ん?」

     「あたし、歩道橋んとこで、東京来て今んとこ凄い楽しかったって言ったじゃん?」

     「言ったねぇ。」

     「でもね、あたし全然ダメでね、昨日ね、1日でね、3人と…うん、3人と。」

     

    ――寝たっつうらしい。


     「うん。それで?」

     「いや、だから、それ嘘付いちゃったから。なんか、なんか申し訳なくなって…」

     「はあ。いや、別に申し訳なく思うことないよ。ただびっくりしただけで。」

    「なんか、みちゃんが一生懸命うちの言うことに答えてくれる姿見てて、『ああ、なんでこんなうちに、みちゃん付き合っててくれるんだろう』って、考えちゃって…。」


    ――なんだかぎこちない謝罪の科白だな。

    言われて悪い気はしなかったけれど、その科白には、窮屈さを感じる。居心地が悪いと言うのか。


     「それで、3人って…どの?」

    「ソウタと、優弥と、あと、ナカハシくん。」

     「ナカハシくん?」

     「そうだよ。あの子だよ。連絡付いたから一緒に飲んで、泊めて貰ったら流れで。でもね、あのね、優弥とのはね、他の2人のとは違うの。全然違うの。『好き』だから。今も『好き』だから違うの。それは自分が望んだことだから、いいの、納得してるの。頭なでてくれて、手ぇ握ってくれて。違うの、ちがかったの、ちがくって…。うん。チガウんだ。」


    ――「好き」っていう言葉の向こう側に、一体何があるというの。

    「違う…。」


    ――ちがく、ない。でも、違う。

    「『好き』だから。」


    ――その言葉の向こう側に、一体何が・・・・・・・。

    「うん。そっか。よかったね。『好き』な人と、デキて。」。


    そこから先、はるちゃんが一方的に呟く「科白たち」は、非常に瑞々しかった。ふるふると震える心の奥底からは、後悔罪悪感自己嫌悪感といった類の負の感情から、或いは其処には自尊心や自己を他者より有利に見るような感情まで、一緒くたになったものが熟れたての果実の果汁のように、じゅわじゅわと湧いてくる。その瑞々しさは、何処か計算されたようなものの感じもした。品種改良を重ねて、作られたような、瑞々しさ。それは感じ取れても、どうしてかはるちゃんの「科白たち」は、もうあたしの心には浸透しない。これだけの事を言っておいて、まだ『優弥のことは、特別』なんて。言わんとしていることだけは受け取っておくけど、説得力なんか、ない。というよりも、「説得されたくなかった」。その考えを振り払うように、あたしはグラスに口をつけて、ぐっとビールを飲み込む。

    別に、はるちゃんと争う気はない。争う気はないのだけれど、次に出てきた言葉は、一戦起こしそうな言葉だった。


    続く

    ****


    この春から、大学に通い直しています。

    襲い来る定期試験期末レポートが嫌で仕方がありません。


    ●「パンは裏切らない」 たかなしみるく 深呼吸歌人153
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    橘川幸夫放送局通信
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