「今日から俺がお前の彼氏だから」

クールで、しかも何故だか上から目線で……でも、何だかめちゃくちゃ気になる。

コクリ、と頷きたい気持ちを抑えて、胸の高鳴りを隠して、私は言った。

「……それも、悪くないかも」

こんなんじゃ可愛くないなぁ、なんて思いながら。

こうしてこの夏、私は運命のヒトに出会ってしまった。


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絶賛干物女子満喫中。他人になんて到底見せられない、すっぴんに寝起き頭にジャージで、私は夏休みの一週間目を浪費していた。

ああつまらない。友達は気を遣うから疲れるし、彼氏なんてできそうもない。

とはいえ、まだまだ夏休みは長い。

「ふぅ……」

真っ白なカレンダーを見て、ため息をつく。去年の夏もこうだった。

今年の夏も、来年の夏も、こんな風に過ぎていくんだろう。

そういえば、もう昼だ。いつまでもこんな恰好をしてベッドでグダグダしているわけにはいかないと、自分を叱る。

「うーん……」

外は暑そうだ。アスファルトに反射した初夏の日差しがなおさら眩しい。深緑が一層青々と、この夏を謳歌していた。

「アイスでも買いに行くかぁ」

やっぱり自分には甘い私。いや、私は自分にだけでなく他人にもばっちり優しいのだ。昔から面倒見が何かとよくて友達のペットにもよく懐かれてたし、ご近所のお婆ちゃんお爺ちゃん方の評判も上々だし、この前なんてカブトムシを助けたりもした。ご褒美も大事だよね、暑いしなんて言いながら最低限の身支度を整える。あー、そろそろ彼氏欲しいなぁ。

「超絶タイプな彼氏、落ちてないかなぁ」

独り言を言いながら家を出た。今年も退屈な夏休みが始まる…その期待は、いい意味で裏切られることとなる。


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コンビニのアイス売り場にふらっと立ち寄ろうとすると、一瞬で目が奪われた。

「えっ、あんな人、うちの近所にいたっけ……?」

そこだけ異世界だった。というのも大げさかもしれないけど。色白で背が高くて、ほっそりとした美少年がそこにはいたのだった。それほど人が多い街というわけでもないので、大体ご近所さんぐらいは顔見知りの筈だった。にしても、なんて美少年なんだろう。思わず見とれていると、彼も視線に気づいたようだった。

「あ、すみません。どぞ」

彼も気まずかったのか、早口でボソボソと話すとその場をそそくさと立ち去ってしまった。なんだか名残惜しい気持ちで、適当に手前にあったスイカ味のアイスを選ぶ私。あー、悲しいなぁ。

「……素敵だったなぁ」

彼が脳裏に焼き付いて離れない。彼のあの早口を何度も脳内でリフレインしながら、コンビニを出ようとした。時だった。

「あ、スイカ味」

「……え?」

彼だった。

コンビニを出たところで、帰り支度をしていた彼。なんでこんなにいちいち私のツボを突いてくるんだろう、この人は。仕草一つ一つがクールで、絵になる人だった。

「いいな。俺、買いそびれた」

「あ……要りますか?」

とっさに口をついて出た私の言葉に、彼がふっと笑う。クールな印象なのに、こんな風に笑う人なんだ。何だかうれしくなった。思わずニコニコしてしまう。

そして彼は、次の瞬間信じられないことを私に言ったのだった。

「ふふ、その笑顔なんかいいね。ずっと見てたい」

「!?!?」

えっ。今なんて言った?初対面なのに、なんでこんなに積極的なんだろう。いやいや、今時の男子は皆こんな感じなのか?頭の中が混乱の嵐の私に、彼はさらに言葉を続ける。

「今日から俺がお前の彼氏だから」

彼のこの言葉で、私の夏が始まる気がした。