あれから夏の日差しが強まっていくのと同じように、私と彼の仲も急速に深まっていた。

「今日、会いに行くから」

 彼から突然電話がかかってくる。

「えっ、ほんとに? 今日のいつ?」

 すっぴんにラフな格好でアイスを頬張っていた私は焦って聞き返す。彼の前では最大限可愛くいたいから、準備は入念にしておきたいところだ。

「え、今」

 ピンポーン。玄関のチャイムが鳴る。相変わらずの彼の行動の速さに驚く私。全部全部が彼のペースだけど、それも何だか心地よいのだった。



 今日は珍しく彼の提案で近所のゲームセンターに行くことになった。彼はアニメやゲームが好きで、私と意外にも趣味が合う。

 早く早く、と急かす彼の横で急いで化粧を済ませた私は、うっかりマスカラを忘れてしまいテンションが下がる。

「なんか、今日元気なくない?」

「だって……急ぎすぎてマスカラ忘れたー」

と、ふいに彼が立ち止まる。じっ、と私の顔を見てこう言うのだった。

「いや、お前メイクしなくても可愛いから」

 ぽんぽん。頭を撫でられて思わず赤面する私。彼といると、何事もない毎日がドキドキの止まらない楽しい時間だった。

「おー、懐かしい」

寂れたゲームセンターではあるが、テンションの上がっている彼。何でも楽しんでくれるお茶目な彼が可愛かった。

「あ、あれ可愛いー!」

 一昔前のアナログなゲームがズラリと並ぶ中、UFOキャッチャーのガラスケースの中に大きなクマのぬいぐるみが見えた。未だにぬいぐるみが好きな私は思わず反応してしまう。

「おし、取ろう! 任せろ!」

 意気込んだ彼は颯爽とUFOキャッチャー前にかじりつく。

「頑張って!」

 彼の微笑ましい様子に自然と笑顔になる私。意外と下手で不慣れな彼はボタンを覚束ない手で押しながら、真剣な表情をする。一度目はクレーンの先で軽く触れた程度で終わってしまった。

「絶対取るから、見ててな」


 腕まくりをして意気込む彼。その張り切り具合とは裏腹に、二度やっても三度やってもなかなかぬいぐるみは落ちそうになかった。私が気を遣い、もういいよと言いかけた瞬間のことだった。

 ガタン。大きな音がして、ピコピコと陽気な電子音が鳴り響く。


「えっ……? これってもしかして……」


「よっしゃあああああ!」


 彼が大声でガッツポーズをする。私も思わず彼とハイタッチして喜んでいた。大きなクマのぬいぐるみが受け取り口から狭そうにこちらを見ている。


「ありがとう! すっごいじゃん! めちゃくちゃうれしい! 大事にするね!」


 ギュッとクマのぬいぐるみを抱きしめながら言う私を見て、彼がふと顔を背ける。戸惑っていると、彼がこっそり赤面していることに気づいた。可愛い。


「……お、喜んでくれて良かったよ」


 彼はクールに早口で言うとそそくさとゲームセンターを去ろうとする。後ろを追いかけながら、私は自然と彼と腕を絡めた。


「ねぇねぇ、今度夏祭り行かない?」


 私、彼のことが大好きだ。毎日一緒にいることが当たり前になった私たちだが、私自身の気持ちはしっかり伝えられていない。今度の夏祭りが絶好のチャンスだった。


「お、いいね!」


 じゃ、指切りだねと言う私に、恥ずかしそうに応じる彼を見ながら、私は願った。



 この幸せがずっと続きますように。今年の夏も、来年の夏も、ずっとずっと__彼も同じ気持ちでありますように、と。