「どうしよう…」

私は鏡の前で溜息をついた。浴衣の帯がなかなかうまく結べない。慣れない手つきで帯を結んで開いてら悪戦苦闘すること既に10分。

「うーん…わ、できたー!」

何とも言えない清々しい達成感を感じていると、ドアの向こうで笑い声が聞こえた。彼だ。

「お前、ぶきっちょかよ」

そう言いつつ部屋に入ってきた瞬間、私を見て動きを止める。一瞬の間。

「えっ、何、めっちゃ似合うじゃん。惚れ直したんだけど」

さらっと言う彼の一言に思い切り照れる私。と、彼も一緒に赤面する。どうやら自分で言ったセリフに恥ずかしくなってしまったらしい。可愛い。  

せかせかと部屋を出て向かおうとする彼を追いかける。

「わーい、行こ行こ!」

私の頭をポンポン、と撫でながら彼が頷く。今日は、約束の夏祭りの日だ。そして、私にとっては彼に思いを伝えることを決めた大切な日でもある。

 

夏祭りの会場は凄い人だかりだった。地方にこの規模のお祭りは珍しいので、あちこちから人が来ている。彼とはぐれてしまうのでないかと不安になるぐらいの人混みだ。

「はぐれるなよ」

彼がぶっきらぼうに手を差し出してきた。照れながらも、彼の手を握り返す。恥ずかしくて、直視できなかった。肩幅が広くて身長の高い彼は、浴衣をさらりと着こなしていた。格好いい。改めてドキドキしてしまう。

 

彼と屋台を一回りし、ひとしきり楽しんだ後、私たちは神社の石段に座って休んでいた。射撃や金魚すくいでムキになっては何度も挑戦し、玉砕する彼が可愛い。思い出し笑いをしてしまう。

と、そのとき__

ドンッ。と、大きな音がして辺り一面が一瞬明るくなった。花火だ。打ち上げ花火が近くで上げられているのだった。

「綺麗…」

何となく雰囲気に照れた私は、そのまま繋いでいた彼の手をぎゅっと握り返す。

「すげー幸せ」

彼が呟くように言った。普段はクールな彼の一言にきゅんとする。今だ。伝えなくちゃ。

「あのね」

神妙な面持ちの私に、彼が怪訝な顔をする。

決意を決めて、私は言った。

「大好き。私からちゃんと言ってなかったから、伝えたくて…」

「えっ…」

戸惑った表情を見せる彼。普段なかなか照れ臭くて言えない私が、こんな風に素直に気持ちを伝えるのは初めてだった。

「俺も。大好き。離れんなよ」

そう言いながら、ぎゅっと私のことを強く抱きしめる。幸せだ。彼のことが、大好きだ。


こうして私たちは、晴れて両想いになった。