「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
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今回は、2024年4月30日(火)配信のテキストをお届けします。
次回は、2024年5月14日(火)20:00の配信です。
お楽しみに!
2024/04/30配信のハイライト
- 映画『オッペンハイマー』感想と「がんばった公取」
- 「Googleのメタクソ化」と「AIとナイジェリアの低賃金労働の関係」
- 「北朝鮮と日本アニメ」とSIMハイジャックの危険性
- 視聴者質問「糖質をつい食べてしまう」と「円安の進行と影響」
- 日本が科学技術立国であった試しがない
- 「消滅する自治体と栄える二つの都市」と「パプアニューギニアの人が筋肉質な理由」
映画『オッペンハイマー』感想と「がんばった公取」
山路:ゴールデンウィークっていうか、4月なのにあのすごいもう26度だったり、30度だったり、すごいことになってますけど。
小飼:いやまぁでも3月が寒かった、いや、でも今だってちょっと雨降ればさ、すぐドカンと冷えるじゃん。
山路:まぁそうだけど(笑)。
「ゴールデンウィーク中もご苦労さまです」(コメント)
山路:って、ぜんぜんまぁ私ら関係ないっちゃ関係ないんですけどね。なんか弾さん、ゴールデンウィークらしいことしました?
小飼:あーまぁ、でも厳密にはな金曜日だったな。やっと『オッペンハイマー』を見ました。
山路:ああ、ようやく(笑)。
小飼:金曜日なので、厳密には、
山路:ゴールデンウィークではないってことね、
小飼:連休イブだ(笑)、
山路:見る見る言うとりましたけど、いかがでしたかと。
小飼:あのね、やっぱり、僕はあの監督のフィクションは好きなんだけど、ノンフィクションって言っちゃいけないな、伝記はどうかなっていうふうには思った。『テネット』とか『インターステラー』とかはけっこう面白かったんでしたけれども。『ダンケルク』とかはね、やっぱりこの人は絵を作っちゃう人なんだよね。だから、あくまでも史実っぽくやるのではなくて、
山路:ただその絵を作るってことに関して『オッペンハイマー』って、その美術ってたとえばロスアラモスの街とかをすごくリアルに再現しようとしたりとか、絵的な撮り方で、それこそクリストファー・ノーラン、CGも使わずにっていう、
小飼:そこなの、一番引っかかったのは。時代が時代じゃないですか。あの時代の人というのは、もうところかまわずタバコ、吸ってはその辺に吸い殻ポイしてたんだけど、で、やっぱり煙は出てるわけですよ、タバコから。でもさ、ヤニ臭さがないのよね、
山路:あははは、そうきたか。なるほどな。
小飼:それですごいシラケちゃった。
山路:それで。
「笑」(コメント)
山路:というコメントが(笑)。
小飼:でも、やっぱり絵的に絶対にサボれないのは、あれじゃないですか、トリニティの、
山路:核実験、
小飼:あれがね、核爆発に見えないんだなあ。だから、要するにバケ学爆発、普通の火薬による爆発で、こういっちゃなんだけどさ、あれだったら唐揚げでいいじゃん、
山路:あっはっはっは、唐揚げって、あの油で揚げる唐揚げのほう(笑)?
小飼:そうそうそう、よく爆発の(笑)、これは唐揚げでしょうか、爆発でしょうみたいな。本当に核爆発っていうのは、最初の部分っていうのは本当に化学の爆発ではありえないような光を発するんですよ。だから、それは記録映像がたくさん残っているので。まぁでも後のほうになると、化学爆発だろうが核爆発だろうが似たような形になるんですね。ですから、じつは普通の爆弾でもキノコ雲っていうのは作れます。
山路:つまり、威力のでかい爆弾だったら結局そうなるということなんですね。
小飼:だけどね、一番最初の光っていうのは化学では絶対あれなので、ああいう時こそCGを使うべきなんですよ。CGを使わないこと自体が間違い。今、実際に核実験っていうのは各国とも全部コンピューターでやってるんですよね。条約で禁じられちゃったっていうこともあるんですけれども。もうコンピューターでシミュレートできるだけの実データというのを核保有国というのはみんな持ってると。
山路:それを映画に使わんのはないやろという。
小飼:映画に使わんで、というのは。
「爆発はやはり庵野秀明」(コメント)
小飼:でも、庵野監督の爆発っていうのは、それこそアニメじゃん、十字架にビョーンってなるやつじゃん、ATフィールドがビョーンってなるやつ(笑)。
山路:(笑)確かにあれで十字架だったら興ざめではありますわな。
小飼:そもそも題材が、絵がメインじゃないんですよ、『オッペンハイマー』って。ただ構成は面白いとは思いましたね。あくまでも、だから一人称視点で、
山路:あくまでもオッペンハイマーがどう感じたかってことですもんね。
小飼:そうそう、伝記ではなくてオッペンハイマー自身の。だからオッペンハイマー以外の視点っていうのは、確か出て、ほとんど出てこない、だな。トリニティの時に科学者たちが床に転がってるとか、そういうのは、あれ、さすがに三人称視点なんだけど。ほぼすべて一人称視点で、
山路:あとはストローズぐらいかな、
小飼:そうですね、ストローズ視点もありますね。なんだけれども、要するにリアルでなくてもいいし、実際にリアルではなくて、surrealなオッペンハイマーの感じ方というのも出てるわけですよ、査問会の中でえっちらおっちらしてたりね、
山路:(笑)えっちらおっちらですな、
「ノイマン影も形もなかったですね」(コメント)
小飼:っていうのは、それはじつは史実通りなんですよ。
山路:ほうほうほう。
小飼:手紙とかのやりとりはあったんですけれども。確かにオッペンハイマーに対するペティションとかも、フォン・ノイマンは連名で署名してたりもしてますし、もちろんマンハッタンプロジェクトではプルトニウムのインプロージョンデバイスの設計というのの計算というのも携わってたりしてるんですけど。ロスアラモスにはあんまり行ってなかったので。
「ファインマンがボンゴ叩きのおじさん」(コメント)
小飼:これは史実通り。というのか、有名なYou must be joking, Mr.Finemanという、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』、「さん」が重要です、にも出てきた、
山路:私も『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は読んだんですけど、ボンゴ叩きというのだけで映画に登場してくるとは思ってなかったから、ぜんぜん気づきませんでしたよ(笑)。
小飼:ファンは一発で(笑)。
山路:しかも映画の中で、一言も名前言わないじゃないですか(笑)。ただのモブみたいな感じの扱いはすごいなとは思いましたけどね。
小飼:いやー、あの辺の歴史というのは本当懐かしくて。僕もじつはあの映画に出てきた人たちに実際に会ったんです。
山路:マジですか(笑)?
小飼:マジです。一番最初にバークレーの大学院生でアルバレスという人が出てくるんですけども、後にノーベル賞を獲って、一番有名なのは恐竜を絶滅させた隕石の、
山路:小惑星というべきなのか、
小飼:息子さんと一緒にその説をあげた人。
山路:ユカタン半島に落ちた、みたいな、
小飼:そうです。そのK-Tバンドリー(境界)、白亜紀と第三紀の地層にやたらイリジウムが多い層があって。イリジウムがなんでこんなにあるっていったら、一番簡単な説明というのは隕石が落ちたと。
山路:そのアルバレスに、リアルに大学時代に会った。
小飼:というのか、亡くなるかなり寸前ぐらいに伝記を書いたんですけども、僕、カフェテリアで会ってた(笑)。あのですね、実家が焼けちゃったときに一緒に焼けちゃったんですけども(笑)。
山路:それはなかなか痛恨の焼失、
小飼:痛恨ですけども、確か親子でいたんですけども、
山路:すごいな。ちなみにその方というのは、
小飼:広島に原爆を落としたときの観測員でもあったんですよ。
山路:エノラゲイに同乗してた?
小飼:エノラゲイっていうのか、その後ろに乗ってた、それの観測機、後ろに観測機が、
山路:同乗というんじゃなくて、近くにいたのは間違いない、
小飼:そうそうそう、それで落とした直後の観測とかもやってるんです。
山路:ちなみに映画では言及なかったですよね、それに関しては。
小飼:本当にあくまでちょい役です。
山路:すげえな。
小飼:オッペンハイマー配下の下っ端。オッペンハイマー、オッピーって呼ばれてたんですけど、すごい偉い人だったので。
山路:へぇええ。なんか本当に単純な、現代とまさに繋がってるなという感じが、
小飼:いや、本当にその通りなんですよ。超リアルなんですよ。
山路:あと演技とかに関してはいかがでした?
小飼:演技はやっぱりグローブス役のマット・デイモンと、あとストローズ役のロバート・ダウニー・ジュニアが「すごい、アイアンマンがこうなるのか」というね(笑)。アイアンマンがこうなるのかという、ロバート・ダウニー・ジュニア。そうなんですよ、悪役というのか、映画『アマデウス』におけるサリエリみたいな役なんですけれども。というのか、この人ヴィランのほうがいい役者じゃんって思ったね。
山路:オッペンハイマーの、主人公の演技自体に関しては、
小飼:あのね、オッピーは本物のそっくりさんすぎて演技が入ってこなかったという(笑)。オッピー、これ本人じゃねみたいな(笑)。
山路:ほー、なるほどね。なんか私は、そのストローズのあたりとかっていうのはちょっと史実をよく知らなかったもんだから、ピンとこないところはあったんだけど、あの人の演技はやっぱなんかすごいものが、鬼気迫るものがありましたね。あれって、結局ストローズっていうのは初めオッペンハイマーをある意味、完全無欠な科学者と思って崇めてたのを裏切られたっていう、裏切られた感なんですか?
小飼:どうなんでしょうね。
山路:ちょっとあの辺の感情の動きっていうのが読めないところはあったんですけどね。
小飼:そもそも、まぁでも単に貶めたっていうのとはぜんぜん違うわけですね。
山路:うんうん。なんか、なんていうか愛憎っていうのともちょっと違うんだけども、なんかありましたよね。全体としてどうでした、見てよかったと思ったか。
小飼:うん、自叙伝で取り上げるに足る人物だったけども、まぁでも僕はこの取り上げ方は、とは思った。あくまでも、事実を元にしたフィクションだっていうふうに僕は見ましたし、これ、『オッペンハイマー』の関係者自体から見るとどうなんでしょうね、というのは思いましたね。
山路:奥さんだったりとかその辺の人の描き方とか、いろいろ、
小飼:いや、僕はやっぱノーランはフィクションは好き。『インターステラー』とか『テネット』とか。いや、でも『ダンケルク』はやっぱあんまいいと思えなかったし。
山路:『ダンケルク』は映画というよりはある意味、戦争体験シミュレーションみたいな感じでしたよね。
小飼:そうなんですよ。あくまでも、作品なんですよね。伝記でなくて。いや、核開発者としては、あとわりと有名なとこで『Fat Man and Little Boy』っていう、いやまさに原爆のタイトル通りの、うんちょっと待ってね。
山路:邦訳、邦題は、
小飼:日本では公開されたのかな。ちょっと待ってね、たぶんある。いや、翻訳が、ぜんぜんこんな翻訳わかんない、『シャドウメーカーズ』という、
山路:『シャドウメーカーズ』、そんなのが、英語なのにぜんぜん違うんですね。
小飼:っていうのが、これはポール・ニューマンがグロースやってんだね。
山路:けっこうじゃあ前の映画、
小飼:けっこう前です。いや、ものすごい前だ、1989年だ。そんな前か。そんな前か、ちょっと待って。
「できはともかく、ノーラン2次大戦や科学者が大好きなんだろうな」(コメント)
山路:あー、いや確かにそれは感じますね。そのあたりの時代に対する関心の強さは。『シャドウメーカーズ』、
小飼:わかんねーよ、『火星の人』が『オデッセイ』になるくらいわかんねーよ(笑)。
山路:核爆弾のことを『シャドウメーカー』みたいな言い方することってあるんですか? あんま聞いたことない、Fat Man and Little Boy、ああ、なるほど、
小飼:Fat Man and Little Boyっていうのはまさに長崎に落としたやつと広島に落としたやつで。
山路:マザーグースの歌みたいな感じの、そんなにかけてるんですかね。そういうのでもないのかな。
小飼:いや、本当に爆弾の形から来てるんですよ。広島に落としたやつというのは、ごめんなさい、失礼しました、ちょっと待ってくださいね。広島に落としたやつというのはガンバレル型というふうに言って、ウラニウムをこう二つに分けておいて、PPAPみたいにボーンという、
山路:PPAP(笑)、懐かしいな、
小飼:タイプなので細長いんですよね。細長いので、リトルボーイだったわけですよね。長崎に落としたやつというのはインプロージョン、爆縮型なのでわりとずんぐりした形をしてるのでファットマンだったんですよね。
山路:それにしても、原爆開発で一番最初の時に2種類の方式のやつを実用化したというアメリカの底力っていうのもとんでもない。
小飼:じつは深刻な事情もあったんです。というのも、核爆弾に使える核燃料というのはウラニウム235か、プルトニウム239なんですよね。ウラニウム235というのは天然ウラニウムを遠心分離器を何段も使って分離しなければいけないんですよね。じつはけっこう作るのが大変なんです。ウラニウムのほうが天然にあるので簡単だと思いきや、実際に濃縮するというのがえらい大変なわけです。それに対してプルトニウム239というのは天然ウランをちょびっと炙るといい具合にできてくれるんですよね。じつは量産するにはそっちのほうがいいですし。なんですけれども、うまく爆発させるためにはガンバレル型というのは苦しいんですよね。それだけ爆弾を作るのが大変。だから、どっちも一長一短があるので、であれば両方進めてみようという。
山路:別々のプロジェクトとして。
小飼:まさにグローブスが力で押したわけです。技術的にはどっちが簡単かっていったら、ガンバレル方式なので、実験してないんですね。トリニティで実験したほうというのはインプロージョン型です。
山路:はぁー。そのあたりの、今回の『オッペンハイマー』って見ると楽しめるために知っておいたほうがいい情報、多すぎなところがあるから(笑)。
小飼:まぁそうですね。だからたぶんその辺の知識がないと、ガラスの容器にビー玉を落としてたシーンがあったでしょ。大きいほうがウラニウム235のほうで、小さいほうがプルトニウム239のほうだった。
山路:もうちょっとそこで解説入れてくれと、でも解説入れたらテンポ悪くなっただろうし、まぁ確かにあれは後からそうやって弾さんの解説を聞いてもう1回見るべきですね(笑)。
小飼:僕は技術フェチとしてあれなので、けっこう昔原爆の仕組みとか水爆の仕組みとか。ちなみに水爆推しだった、ちゃんとテラーも出てきましたね。
山路:あれがある意味、後半のキーパーソンでもあるわけですよね。
小飼:ちゃんと、あの英語の訛りも練習したんだろうなあ。
「パンフレットに記載しておいてほしいわ」(コメント)
山路:って、そうですね。書いてあるのかな、どうなんだろう。
小飼:どうなんだろうね。
山路:じゃあちょっと『オッペンハイマー』けっこう語っちゃいましたけど、IT絡みでGoogleの話行っておきましょうか。Google、公取からコラって言われちゃった。
小飼:ついにね。
山路:ついに。これに関しては公取はちゃんとした仕事をしていると。
小飼:そうね、まぁ甘いんだけど、そもそも公取って、そんなに権力を持っているわけではないので。公取の持てる権力というのをわりと使えるところは使ってっていう。