マスコミや永田町には「高市早苗政権は短命で終わる」という見方があります。高市氏は自民党内に強固な支持基盤があるわけではなく、そもそも自民党が衆院で過半数を握っていないからです。はたして、そうでしょうか。私は、高市政権は安定した改革保守政権になるのではないか、と思っています。衆院解散・総選挙は当分、先送りでしょう。

前回のコラムでも書いたように、高市氏には「日本維新の会」という閣外にいながら、政権に対して生殺与奪の権を握っている政党の強力な支持があります。それが、実は高市氏の政権維持にプラスに働くからなのです。

政権維持を他党に依存しながら、安定してしまう、この奇妙な構造は、いったい、どういうわけなのか。以下、説明します。

そもそも、維新は別の党ですから、同じ党の派閥のように、何があっても高市氏を支持しているわけではありません。維新は高市氏が自分たちの政策を進めてくれる限りにおいて、協力しているにすぎません。

逆に言えば、もしも高市氏が維新の政策に背を向けたりすれば、いつでも去っていくでしょう。言い換えれば、維新は「オレたちに協力するなら支援するが、しないなら、いつでも政権を倒すぞ」と脅しているようなものとも言えます。

もちろん、そんなことは表で口にはしませんが、高市氏もそれは十分、分かっているはずです。なにせ、逃げられたら、その瞬間に少数与党政権に転落してしまうのですから。

そんな自由な立場こそが、維新が閣外協力の道を選んだ理由です。

では、高市氏が維新との合意を裏切る可能性はあるのか、と言えば、ほぼありません。逃げられたらおしまい、というだけでなく、高市氏は維新が10月16日に公開した政策協議メモの要求12項目を、ほとんど、そのまま受け入れたからです。

画像https://o-ishin.jp/news/2025/images/233f920ca51ed18ad1095d8ed144f5ba57abf5e6.pdf

4日後の20日に、高市氏が維新の吉村洋文代表、藤田文武共同代表と結んだ合意書は、この12項目がほぼすべて網羅されていました。

画像https://o-ishin.jp/news/2025/10/20/17558.html

両方の文章を読み比べてみると、合意書は医療機関の経営を好転させるための施策や国家情報会議の創設などが付け加えられただけで、当初の政策協議メモの内容がそっくり踏襲されています。ほとんど98%受け入れた、と言っていいでしょう。

高市氏は維新の要求を丸呑みしたのです。ということは、維新が提案した政策に文句はなかった、という話でもあります。

高市氏は維新の要求を嫌々ながら受け入れた、というわけでもありません。租税特別措置や補助金見直しのような目玉政策を担当する片山さつき財務相に、わざわざ、租特と補助金見直し担当の内閣府特命担当大臣を兼務させたのが、その証拠です。

本心が受け入れたくなかったなら、担当相の兼務ではなく、財務相として片山氏にすべて任せればいいだけだからです。当の片山氏も就任会見で「租特と補助金の見直しは財務省の本来業務」と強調していましたhttps://www.youtube.com/watch?v=BxgOm9xaT-w&t=1233s

高市氏から特命相の兼務を命じられたことで、片山氏も高市氏の租特と補助金改革にかける熱量の大きさを十分に感じているようです。それが会見で、言葉の端々ににじんでいました。

つまり、高市氏は維新の要求を「絶好のチャンス」と捉えて、その路線に沿って改革を推し進める決意を固めているのです。けっして、嫌々ながらとか渋々、仕方なく受け入れた、という話ではありません。

そうだとすると、維新は閣外協力とはいえ、高市氏にとって最重要のパートナーでもあります。

高市氏にとって政権の存続を脅かす最大の敵は誰か、といえば、野党やマスコミではありません。実は、自民党内の反主流派=リベラル派です。具体的に言えば、総裁選で小泉進次郎氏を推した145人なのです。

政権は外部からの攻撃では倒れません。危うくなるのは、内部の敵、すなわち反主流のリベラル派がサボタージュを始めたときです。それは、これまでの自民党抗争を思い出せば、十分でしょう。

第1次安倍晋三政権も結局、財務省をはじめとする霞が関官僚と歩調をそろえた反主流派に寝首をかかれたかたちで倒れました。病気はきっかけにすぎません。

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高市氏は維新の政策を推し進める限り、リベラル派との戦いに閣外の維新の力も動員できます。彼らは財務省べったりではないうえ、もともと改革保守を名乗っているので、高市氏と気性も合います。

つまり、高市氏は維新に首根っこを押さえられているように見えて、実は、彼らの強硬路線を逆手に取って、リベラル派を抑えつけることが可能になったのです。それが、片山氏の大臣兼務人事に象徴されています。

さて、そんな政権構造だとすると、衆院解散はどうなるのか。

結論を先に言えば、当分、ないでしょう。年内はおろか、来年1月の通常国会冒頭解散もありえない。なぜかといえば、維新と合意した政策を進めるのに、そんな短期では、とても片付かないからです。

そもそも、早期解散などしたら、維新との合意をちゃぶ台返ししたも同然になってしまいます。維新とすれば「オレたちと結んだ合意はどうするんだ。まさか、単独過半数の回復を狙って、上手くいったら、縁を切ろうというんじゃないだろうな」と受け止めたとしても当然です。

高市氏は単独過半数が絶対、実現できる保証もないのに、あえて、そんなリスクを犯す必要がないのです。それより、当分は「維新の要求」を御旗に掲げて、淡々と改革を積み重ねていけばいい。

10月末には、米国のドナルド・トランプ大統領との首脳会談も控えています。トランプ氏は日本に防衛費の大幅拡大を求めてくるでしょう。6月20日には、英フィナンシャル・タイムズが「米国は日本に国内総生産(GDP)比で3.5%の防衛費を要求した」と報じました。

米FOXニュースは10月22日、トランプ政権が日本にGDP比5%の防衛費を要求する、と報じています。

GDP比3.5%だとしても、現状は1.8%程度ですから、約2倍、金額にして約10兆円もの増額になります。こんな要求をしてくるトランプ氏を迎えるのに、来年度予算編成を12月に控える高市氏が解散・総選挙などしている暇はありません。

そうやって、仕事を進めているうちに、自民党内のリベラル派は次々と「にわか保守派」に寝返る可能性がある。彼らにしてみれば、高市政権の人気が高いうえ、公明党を連立政権から失ったいま、リベラルを気取っていたら、自分の再選が危うくなりかねないからです。

それより、にわか保守派に転向して、公明が各選挙区で持っているといわれる1万から2万票のマイナスを、少しでも取り戻したほうがいいに決まっています。もはや、リベラルでは生きていけないのです。

かくて、衆院解散を先送りして、維新と二人三脚で政権を運営していれば、おのずと長期政権の道が見えてきます。

他党の力を借りて、自分の党の反主流勢力を封じ込め、政権の安定を図る。私の知る限り、こんな展開は例がありません。「政治は一寸先は闇」と言われますが、今回は「政権は一寸先は光」になるのではないでしょうか。

実に、興味深い展開になりそうです。