サッカーW杯がいよいよ2週間後に迫った。

デル・ピエーロの劇的ゴールの準決勝、ジダンの頭突き退場が物議を醸し出した決勝――
早いもので、あの2006年W杯から丸20年が経った。



前回大会は12月の冬開催だったため、今から3年半前のことになる。

浅野のサイドネット貫通バグでドイツに勝ち
三笘の1ミリでスペインに勝ってリーグ1位通過した日本代表の躍進も嬉しかったが、
私の記憶に今でも鮮明に残っているのが決勝戦のアルゼンチンvsフランス

事実は小説より奇なり、という言葉をまさに地で行く展開で、
巷では「サッカードラマの最終回」などと言われるほどの劇的な試合だった。

この大会までの両チームの歩み、そして決勝戦の試合のとんでもない展開、
PK戦を制して優勝を決めた瞬間のアルゼンチン選手たちの何とも言えない安堵の表情。
あれが狂喜乱舞ではなく安堵が先に立っていたのを見て、彼らが背負ってきたものの重さがいっそう際立って見えた気がした。
そして優勝セレモニーで輪の中心にいたメッシはさながら神のようだった。



一方その決勝で、あと一歩のところで優勝を逃したフランス
しかし2016年EURO準優勝、2018年W杯優勝、2022年W杯準優勝、2024年EUROベスト4、そして今回のW杯も優勝候補筆頭と、
自身も1998年W杯で優勝経験のあるデシャン監督のもとで
この10年間世界トップレベルの実力を保ち続けているのは驚異的と言うほかない。

フランスは昔からとにかく「でかい、速い、上手い」の3拍子が揃っていて隙がないイメージ。
ひと頃前の南米勢ほどではないにせよ、個の能力に頼る度合いが多い印象のフランスではあるが、
組織で崩す、組織で守るということもきっちりやっていけるので、
状態が良い時のフランスは本当につけ入る隙がなく、ただただシンプルに強いの一言。



ただフランス代表というと、
チーム内の諍いや内紛がつきものという側面があったりする。
我(が)が強すぎる人間がたくさん集まるとチームとしてはダメということなのだろうか、
その爆弾がインパクトの大きい形で炸裂すると
戦力は十分すぎるほど揃っているのにあっけなく敗退、となってしまうことがこれまでの歴史でもしばしばあったりする。
近いところで挙げれば、2010年W杯での空中分解はかなり衝撃的だった。

今大会も戦力としては間違いなく世界トップクラスである。
特に前線のメンツはエグすぎる。

・Rマドリード(スペイン)のエース
・パリ(フランス)のエースと新世代エース
・バイエルン(ドイツ)の新世代エース
・マンチェスターC(イングランド)の新世代エース
・インテル(イタリア)のエース

これが全部同じチームにいるというのだから反則でしょう。
ヨーロッパ主要国リーグで優勝争いに関わる各チームのエースが一堂に会する様子は
まさしく世界選抜・オールスターといった感じ。
直前の怪我で惜しくも選外となってしまったがここに
リヴァプール(イングランド)のエースも入るはずだったというのだから手が付けられない。

そして前線の派手さが凄まじすぎてあまり語られないが、
中盤もディフェンスも当たり前のように世界トップレベルの選手が名を連ねている。

今の日本はどこの強豪国と当たっても互角にやり合えるくらいの実力を持っているとは思うが、
正直フランスだけはどうやっても勝てるビジョンが浮かばない。



ただし今回、2010年W杯の時のような事態に陥る可能性もあるのではないかと睨んでいる。

ずばりキーパーソンは、Rマドリードのエースことエンバペ
つい昨日、パリサンジェルマンが欧州チャンピオンズリーグで2連覇を達成したことによって
エンバペへの内外の風当たりがよりいっそう強くなることが予想される。

2018年W杯、19歳で背番号10を付け、決勝戦でもゴールを決めるなど凄まじい勢いのままに優勝。
2022年W杯、決勝戦のハットトリックで優勝まであと一歩に迫る準優勝。

W杯歴代最多得点のクローゼは4大会で16得点。
対してエンバペは2大会で既に12得点
今大会で早くもクローゼの記録を抜く可能性もあることからもわかるように、
エンバペのこれまで2大会のW杯での活躍は疑いようのないものだ。
彼は何か理屈では説明のつかない、神懸かり的な力を持っているようなそんなオーラすら感じさせる。

ただし、最近2年間の所属クラブをめぐる結果から、彼に対する風向きが変わってきている
前所属のパリサンジェルマンでついにチャンピオンズリーグを優勝できなかったエンバペは
これまで同大会で最多優勝数を誇る名門Rマドリードへと移籍したものの、
彼が移籍してからはチャンピオンズリーグのみならず国内リーグでも優勝できず
まさかの2年間無冠に終わっている。
彼自身は昨期44ゴール、今期42ゴールと、世界を代表するストライカーとして申し分のないゴール数を挙げているというのに。

一方のパリサンジェルマンはエンバペが離脱してから生まれ変わったように組織的なサッカーを構築し、
クラブ史上まだ優勝経験のなかったチャンピオンズリーグで2連覇を達成した。
軸となる前線メンバーには、フランス代表に選ばれたフランス人選手が3人もいる。

つまり片やエンバペが来た途端に勝てなくなって無冠に終わったチーム、
片やエンバペがいるうちは勝てなかったのにエンバペが離脱した瞬間に欧州2連覇を達成したチーム、
これでは疫病神と呼ばれてしまっても仕方ない。

ゴールを決める選手と、チームを勝たせられる選手というのは、実は微妙に異なるということなのだろう。
まあRマドリードは必ずしもエンバペだけが悪いわけではなく、
チーム事情が病膏肓に入る感じなのである意味かわいそうな役回りではあると思うが。

今回のフランス代表、戦力的に優勝候補筆頭なのは間違いないが、
エンバペの振る舞い次第、あるいは監督のエンバペの扱い方次第でチームの優勝が近づきもするし遠ざかりもするだろう。



むしろ個人的に注目しているのはオリーセだ。
今一番見ていてわくわくするサッカーをする選手だと声を大にして言いたい。
今期24ゴール29アシストという記録だけでもすごいことがわかるが、
独特のリズムで右サイドを駆け上がり、時に縦に突破し、また時に内へカットインして直接シュートを狙う、
1世代前で言うと、ブラジルのロナウジーニョと、オランダのロッベンの魅力を合わせたような選手だ。

チャンピオンズリーグでは惜しくもパリに負けてベスト4止まりとなってしまったが、
今期ドイツ国内リーグのバイエルン断トツ優勝の立役者で、加入2年目にして早くも替えの利かない存在になっている。

ベスト8のRマドリード戦2ndレグ、後半終了間際のゴールシーンには衝撃と同時に感動を覚えた。
もう時間稼ぎで勝ちなのに、あの落ち着き、行けるという見切り、覚悟、
そしてその後のプレイの正確さ、美しすぎるボールの弾道。
サッカーを観ていてここまでゾワッとする感じで感動したのは、
本記事冒頭で紹介した20年前のデル・ピエーロのゴールシーン以来だったかもというくらいの
ストーリー、テクニック、ビジュアルすべてにおいて完璧な1シーンだった。

プレイはガツガツ系なのにゴールを決めても基本的にクールにすましている。
代表に登り詰めるまでには想像を絶するほどバチバチに激しい競争が続いてきたはずなのに、
口数もそれほど多くなく、照れ屋、恥ずかしがり屋というタイプにすら見える。
そしてまだ24歳。

マイケル・オリーセ。
その名前がW杯だけを見るサッカーファンにもはっきりと認識されるまで、あとわずか。
彼がW杯で活躍する姿を見るのが今から楽しみだ。





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