• このエントリーをはてなブックマークに追加

na85さん のコメント

 突然ですが、「里海資本論―日本社会は共生の原理で動く」(片山恭介・NHK里海取材班/角川新書)の書評をブッ込みます。
 これは、以前ここで紹介させていただいた「里山資本主義」の続編と言うべきものです。里山の概念とは、人間の暮らしの営みが多年にわたり続くことで、逆に自然の循環・再生が保たれ、生物多様性も増すような樹林地・農用地を指します。本書の里海の概念も、例えば瀬戸内海の内湾では養殖用のカキ筏を復興し、また海底にアマモという海藻の種を蒔いて藻場を漁師たちが復活させると、高度成長期に赤潮が頻発していた海域でも、魚介の棲息が豊かになり海が生き返ったことが紹介されています。
 カキは水質浄化能力が高く、カキ筏そのものも水棲生物の産卵場所になり、またアマモにも稚魚を天敵から守る効果があります。このアマモという海藻は、石風呂(サウナ)の床に敷かれると健康効果が発揮されるそうです。さらに使用済みのアマモは、畑に鋤き込めば海の栄養を大地に還す肥料となり、有機野菜の生産にも寄与します。ここに里海と里山が結びつくわけです。これは、庶民の竈の灰さえ業者がかき集めて農家に売り、肥料とすることで成り立っていた江戸期の物質循環社会・循環経済を彷彿させるものです。
 さて、瀬戸内海沿岸は元々綿花の産地であり、今治のタオルや倉敷のデニムなどに名残が見られるように綿製品の一大生産地でした。瀬戸内海のある島で、お年寄りの昔の記憶に残る綿花の白い風景を復活させようと奮闘している人は、島の産物を使った料理を次々考えて出すカフェも経営しています。また、以前都会に出ていたけどターンしてきた高齢者を、やはりターンしてきた若者が同郷人として心からの介護する施設があり、そこに食事を提供するのもそのカフェです。そして復活した綿は、かつて瀬戸内海を航行していた海賊も使ったという帆布の工場で綿布にされ、島の産物を使って草木染され、独自ブランドになろうとしています。つまり様々な産業が復活するわけです。
 このように著者は、里山と里海、そして都会を結び付け、そこを人が自由に行き来し、市場から独立した地域の独自経済圏を築くことが、暴走するマネー資本主義を克服する希望だとしています。このあたりは、食料とエネルギーを各地域の特色に合わせて自前で賄えば、やがて産業も復活して人口も増え、共同体の新生にも繋がるとするよしりん先生の考察に通じるものがあると考えています。
 しかし、これを国レベルで考えると、自前で食料・エネルギー・教育・医療・軍事力…など必需の物品やサービスを出来る限り自国で担保し、貿易を徐々に抑えていくことが必要となります。そのためにはTPPや各種自由貿易協定を拒否せねばならないため、自主外交・自主防衛、つまり自主独立が不可欠となるのであり、つまり環境や経済だけの問題ではなく、政治や軍事の話も関わってくるはずなのです。このあたりが「資本論」をタイトルに冠する著者のサヨク的思考の限界だという気もします(いいがかり・笑)。
 いずれにしても、生物としての人間の故郷に近い近代以前(江戸期)の里山・里海へ還ることは、都会に疲れた現代人が心から求めていることだという事実は間違いないでしょう。

 そこに至るまでに難問がある! na85
No.103
112ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
第149号 2015.9.22発行 「小林よしのりライジング」 『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。 毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行) 【今週のお知らせ】 ※「ゴーマニズム宣言」…安保法案がついに成立してしまい、日本は集団的自衛権を行使できることとなった。行使の前提として掲げた3条件の1つ「存立危機事態」は本当に「歯止め」となり得るのか?そもそも「集団的自衛権」とは何か?立憲主義も法治主義もかなぐり捨て、大急ぎで安保法制を成立させなければならないほどの理由が、今の日本にあったのか?ペテンだらけの従米安保法案が成立した真の理由を直視せよ!! ※「ザ・神様!」…父親である景行天皇からその存在を恐れられ、「東国征伐」を口実に、大和を追い出されてしまったヤマトタケル。伊勢を出て、尾張の主要拠点・熱田へと向かった彼の前に、意外な障害が立ちはだかる!?いつの世も、この問題は避けて通れないのでありましょうか?? ※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!政党はなぜ選挙公約を平気で破るの?「ネトウヨを優先的に徴兵しろ」という発言と「国防は苦役ではなく崇高な国民の義務である」という発言って矛盾してない?自主独立の先には結局日米決戦しかないのでは?前髪があるヘアスタイルと無いスタイル、どっちが好き?連休の大型化をどう思う?共産党が提案した「戦争法廃止の国民連合政府」は可能?…等々、よしりんの回答や如何に!? 【今週の目次】 1. ゴーマニズム宣言・第145回「成立した従米安保法案のペテンを教える」 2. しゃべらせてクリ!・第109回「ぽっくんの腹話術ショー・茶っこく堂ぶぁい!の巻〈後編〉」 3. もくれんの「ザ・神様!」・第65回「ヤマトタケル物語・その6」 4. Q&Aコーナー 5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど) 6. 読者から寄せられた感想・ご要望など 7. 編集後記 第145回「成立した従米安保法案のペテンを教える」  安保法案がついに成立してしまい、日本は集団的自衛権を行使できることとなった。  集団的自衛権を使う際の前提となる3つの条件の1つに、 「存立危機事態」 というのがある。  その定義は、以下のとおりである。 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」  これ、平たく言えば、 「米軍が攻撃されたことによって、日本が存立危機になった時」 と書いてあるのだ。  つまり わが国が「存立危機事態」にある場合しか、集団的自衛権を行使できない ということであり、この条件は、集団的自衛権を無限定に行使させないための「歯止め」とされている。  ほとんど日本が滅亡の危機に瀕している状態と言うべき「存立危機事態」の時しか行使できないというのだから、一見、非常に厳しい縛りのように思えるのだが、実際には、これは全く無意味な条件なのである。   そもそも「集団的自衛権」とは「他国を防衛する権利」である。 「 自国が攻撃されていなくても、他国に対する攻撃を自国に対する攻撃と同じとみなして反撃する 」というのが「集団的自衛権」である。   ところがこの「存立危機事態」の定義は、「日本は攻撃されていないのに、アメリカが攻撃を受けたことで、滅亡の危機に瀕している事態」というものなのだ。  一体全体、何のこっちゃ!?  そんな奇妙奇天烈な状況って、ありうるのか!?  政府が説明する際に具体例として挙げたのは、日本海で米軍のイージス艦を北朝鮮が攻撃しようとした時に、自衛隊が守るというものだった。  だが、たとえ米軍のイージス艦が攻撃されたって、それで日本が滅亡の危機に瀕するなんてことがあるわけがなく、これが「存立危機事態」だなんて言えないのは明白である。  それでも米艦の防護をするというのは、要するに友軍だから絶対に守らなければならないというだけのことである。   実際には日本の存立危機に何も関係なくても米艦を守ることになっているわけで、「存立危機事態」なるものを設定することに、何の意味もないのである。  政府は集団的自衛権行使が「限定的容認」だと言い続けてきたが、「限定的」とするための「歯止め」として設定した「存立危機事態」という条件には全く実体がなく、 事実上は歯止めなしの無限定容認となっているのだ。  そうなっている以上、中東で米軍が襲撃されたら、日本の存立危機に何の関係もなくても、自衛隊を派遣しなければならなくなることは間違いない。   要するに、日米同盟の信頼性が揺らぐことが「存立危機事態」になっているのだ。   アメリカの信頼を失ったら、日本は滅亡してしまう、これこそが「存立危機事態」だということになってしまっているのである。 「存立危機事態」については、もう一つおかしな話がある。 
小林よしのりライジング
常識を見失い、堕落し劣化した日本の言論状況に闘いを挑む!『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりのブログマガジン。小林よしのりが注目する時事問題を通じて、誰も考えつかない視点から物事の本質に斬り込む「ゴーマニズム宣言」と作家・泉美木蘭さんが圧倒的な分析力と調査能力を駆使する「泉美木蘭のトンデモ見聞録」で、マスメディアが決して報じない真実が見えてくる! さらには『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成させる大喜利企画「しゃべらせてクリ!」、硬軟問わず疑問・質問に答える「Q&Aコーナー」と読者参加企画も充実。毎週読み応え十分でお届けします!