日本でもアマゾンの電子書籍端末『キンドル』が、発売された。11月19日から購入者の手元に届き始めるそうなので、本とデジタルに興味のある人たちの間では、ここ数週間、この話で持ちきりになると思う。キンドルを使うことは、ちょっとした教育的体験だからだ。
私の場合は、'09年に日本でキンドルが買えるようになって手に入れたのだが、まさにそうだった。
まず驚いたのは“ウィスパーネット”だ。これは、アマゾンのクラウドとキンドルを文字どおり“ささやく(whisper)”ようにつなぐネットワークのことだ。この名前がいかにもなのは、PCのアマゾンの画面から電子書籍を買うと、“いつの間にか”私のキンドルに、その本が入っている。PCで買ってUSBや無線で同期するのではない。まるで手品みたい。いまじゃ驚かないかもしれないが、当時は、iTUnes Storeがえらく古めかしいものに見えた記憶がある。
業界はいま“モバイルシフト”がキーワードになっている。一番元気だったはずのフェイスブックも必死だし、その上で稼ぎまくっていたゲームのZyngaなんかは調子を崩してしまっている。
ところが、アマゾンのCEOベゾスだけは、そんな動きにジックリという感じで対応しようとしていると思う。同社がキンドルを発売したのはiPhoneと同じ'07年で、iOSやアンドロイド向けにもアプリも提供してきた。しかし、それらのモバイルはアマゾンのサブルーチンでしかないのだ。
ネット販売の売り上げ規模は、PCがモバイルの10倍あると言われている。米国ではモバイルが1年で倍増したというニュースもあるが、PCのほうがユーザーの目に入るものが多い。アマゾンの軸足はウェブの画面で、本はもちろん、トイレタリーから大型テレビまで、ユーザーが、何に興味を持ってどこをクリックしたかが観察できる。
ユーザーの行動と言えば、ポイントを運営する会社がユーザー情報をどう扱ったかとか、ビッグデータを活用したソーシャルメディア分析がトレンドになったりしている。しかし、それは“アマゾンでない人たち”の話題なんですね。
↑これからキンドルを手に入れる人へのアドバイス。'09年に手に入れたキンドルをなくしてしまった。電子書籍デバイス全般に言えることなのだが、薄いので本や資料の間にはさんで見失いがちだ。ウィスパーネットの機能として、“ビープ・マイ・キンドル”ってのを追加してほしい。これはアマゾンさんへのお願いだ。
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
角川アスキー総合研究所ゼネラルマネジャー。同研究所の「メディア&コンテンツサーベイ」の2012年版の販売を開始。その調査結果をもとに書いた「戦後最大のメディアの椅子取りゲームが始まっている」が業界で話題になっている。TOKYO MX TV 毎週月曜日18:00からのTOKYO MX NEWS内「よくわかるIT」でコメンテータをつとめている。
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