従来、数十万円する高級セラーに付いていた冷却機構を備えながら、価格は10万円を切った。ユーザー本位のためにゼロから設計開発することで、日本の住宅事情に合わせたコンパクトサイズになっている。下段は短期保存、上段は長期熟成と使い分けられて、日本酒や焼酎も冷蔵できる。
さくら製作所『ファニエル』(24本収納)実売価格7万円前後で予約待ち開発したのは冷蔵庫のプロだ。しかし大手家電メーカーではなく、農家用“玄米保冷庫”をつくっていた会社。大手家電メーカーが下請けに“丸投げ”しがちな設計や製造をすべて自社で請け負うことで、小売価格をズドンと下げている。
「ファンの回転数を決めるのが大変だった」と開発元は笑う。
回転数を上げれば音も大きくなる。大きなファンを使うと小型化できない。冷却に使うコンプレッサーのサイズを変えたり、試行錯誤を繰り返した。値段を倍にすれば使える部品はあったが、それではおもしろくない。小さくても実力派という未踏の領域への挑戦に価値があると考えた。
「ワインセラーを理想的な部分に近づけたい」と開発元は語る。
製造元だから見える世界がある
さくら製作所のように、高級ブランドに使われる素材、業務用に備わっていた機能、プレミアム仕様を安価なモデルに入れて売っちゃおう、という流れが“OEMスタートアップ”のトレンドだ。既製品から機能を省いて値段を安くする、いわゆる“ジェネリック家電”とは発想がまるで違う。
たとえばパソコン用のスピーカー『オラソニック』をつくっている東和電子は、もともと高級オーディオの下請け会社。ピュアオーディオに入っていたコンデンサーを惜しげもなく使ったスピーカーの音質は、同価格帯の競合を圧倒的に上回る。クチコミ効果で、宣伝なしでも飛ぶように売れた一品だ。
オラソニック USBスピーカー 実売価格1万円前後洋服の世界では、縫製工場と手がけるファクトリーブランド『ファクトリエ』に注目。某有名ブランドと同じ日本の工場でつくったトレンチコートは、ブランドものが数十万円したのに、10万円以下で買える。
ファクトリエの理念は“職人への尊敬”だ。ファッションの本場フランスにおいて、高級ブランドは生産現場に最大の敬意を払う。職人がブランドをつくりあげているとさえいわれるらしい。
ファクトリエ ニット 直販価格1万2960円から生産拠点を外部に置くのが当然とされるグローバル時代において、ブランド価値は目に見えづらいものになってしまった。そんな中、規模こそ小さくても、製品の「本質」で勝負するスタートアップが増えている。
買うことが社会的な支援にもつながり、しかも質がいい。モノづくり現場は生き物のように変化している。
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