SFという言葉が何の頭文字なのかご存じだろうか。
正解はもちろん「サイエンス・フィクション」であるわけだが、意外に知らない人も少なくないかもしれない。
SFとはサイエンス(科学)のフィクション(物語)なのである。
戸田誠二『説得ゲーム』は、高度に発達した科学が垣間見せるさまざまな人間模様を感動的に描き出したSF短編集。
収録作は「キオリ」、「タイムマシン」、「NOBODY」、「説得ゲーム」、「クバード・シンドローム」の五作。
意外性のあるアイディアから生まれた、切々と胸に染み入るような力作ぞろいだ。
「キオリ」は肉体を失い、脳だけで生きることになった女性と、彼女を検査する研究者の話。淡々と進む展開の果てに哀切な結末が待っている。
「タイムマシン」はタイトル通りタイムマシンネタのショートショート。わりと無茶な話なのだが、ふしぎと心に響く。
「NOBODY」は別人の肉体に脳を移植された青年の話。個人的にはこれがいちばん好きだ。自分の身体をなくしたあと、一から生きなおそうとする主人公の姿に励まされる。
「説得ゲーム」は自殺しようとする女性を説得するゲームを巡る話。生きる意味とは? 生きなければならない理由とは? 物語はしずかに問い掛けて来る。
「クバード・シンドローム」はこの本で最高の異色作だ。「クバード法」と呼ばれる方法で男性が妊娠できるようになった時代に、妊娠・出産に挑むひとりの男の変わって行く心理を描く。
これは非常に面白かった。男性の妊娠とはもちろん特別に目新しいアイディアではないが、戸田はていねいに子供をみごもることになった男性の心を追いかけていく。
心あたたまる結末も含めて、優れた作品だと感じる。
この五作を通して伝わって来るのは、人間のほのかなぬくもりのようなものだ。
全作とも、アイディアだけなら特筆するべきものではないかもしれない。
もっと突飛なことを考え出す作家はいくらでもいるだろう。
しかし、