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スティーヴン・ミルハウザーの短篇集『イン・ザ・ペニーアーケード』を読んだ。
ある晴れた冬の朝。少年が目を覚まし、何気なく窓の外を覗いてみると、そこに奇跡の光景が広がっている。昨夜目にした景色がどこにもない。真夏のような青空の下、見渡すかぎり広がるのは、うねる波までそなえた白銀の海。雪が降ったのだ。
その歳の少年にのみ許された歓喜につらぬかれ、うきうきと街をねり歩く。すると街角のそこかしこに見なれない純白の彫刻が目に付くことに気づく。細部に至るまで情熱をこめて形づくられた雪の彫像。ありふれた雪だるまの次元をはるかに超えた、精緻な芸術品である。
はじめは稚拙な雪のかたまりに過ぎなかったものが、対抗意識に駆られた模倣合戦のうちに進化したのか? あるいは、どこかの天才的なこどもが奔放な想像力のままに作り出し、ほかの者が必死にそれを真似たのだろうか?
いずれにせよ、それが始まり。時を経ずして雪人間は雪の動物たちへと姿を変え、二日めには雪の樹木が生み出される。冬のあざやかな陽射しを受けて、純白に照り光る雪のカエデ、雪のモミジ。ありふれた街並みのなかに、ありえないほど神秘的な雪世界が生み出されていく。
そして三日目、遂に雪像は現実の地平を乗り越え、雪の幻獣たちを生み出すに至る。雪の有翼獅子、雪の一角獣、雪の海大蛇、幻想の博物誌にのみその名を記載されるふしぎな生き物たちが、雪の彫刻家たちによって作り出されていく。
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