海燕さん のコメント
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ヨシュアン・グラム。〈貴族殺し〉。〈六色開眼〉。革命の英雄〈タクティクス・ブロンド〉中の〈輝く青銅〉。炎の意志と氷の冷血を併せ持ち、孤軍、戦局すら左右する超人のひとり。
いえこけい『リーングラードの学び舎より』は、この歴戦の剣士(軍人? 暗殺者?)が国王肝いりの「義務教育計画」を推進するため、教師となってリーングラードの地に赴くところから始まる。
かれを待ち受けていたものは、貴族、平民、エルフなどから選抜された五人の少女。彼女たちを教え、導き、一定の成績を収めさせることがかれのミッションだ。
しかし、自然、そこには〈貴族院〉の策謀が絡む。はたしてヨシュアンと少女たちは、数々の試練を乗り越えて卒業することができるのだろうか?
と、縷々書いていっても、この作品の魅力は半分も伝わらないだろう。『リーングラード』の魅力は、筋書きにはないからだ。そのほんとうの魅力は、読んでみなければわからない。
だから、ぼくはいつものように伏してお願いする。どうか、この小説を読んでみてほしい。必ずしも好みに合うとは保証できない。一見して派手な作品ではなく、じっさい、そこまで人気が出ているわけではない。
しかし、これはすばらしい小説だ。久々に大長編小説の醍醐味を味わえた。読めば読むほどさらにおもしろくなってゆく歓び。傑作はどこに眠っているかわからないとしみじみと思う。
否。もちろん、『リーングラード』は「眠っていた」わけではない。一定以上の数の読者から支持を受けつつ一年以上にわたって連載されつづけている作品である。
しかし、その気宇壮大、構想の充実を考えると、高々数千人に独占させることは惜しい。もっと読まれるべきだ。もっともっと読まれるべきだ。
幾万もの読者の賞賛と渇望を受けることがふさわしい。未読の方には満腔の自信をもって奨められる。必ずしも取っ付きやすくはないが、読み進めるうち、「何かが違う」という実感を得られるだろう。
初め、物語はごくライトにコミカルにスタートする。リスリア王国の賓客であるヨシュアンが、「バカ王」ランスバールの要請を受け、一教師として赴任するあたりでは、まだそこまでおもしろい作品には思えない。
ごくありふれた軽薄な物語、そういうふうに受け取るひともいるだろう。しかし、そこで投げ出すことなくもう少し先まで読んでいってほしい。少しずつ物語世界の全景があきらかになってゆくはずだ。
リーングラードを訪れたヨシュアンと、五人の少女たちは、ときに衝突しつつ、交流を繰り返してゆく。過酷でありながら穏やかな日々。少しずつ青年教師ヨシュアンと少女たちの間に信頼が芽生えてゆく。
もっとも、この作品が連載されている「小説家になろう」では「教育もの」はありふれている。その意味で『リーングラード』に特別目新しいところはない。そういうふうに思える。
ところが、読み進めていくにしたがって、多くの読者は違和感を募らせるに違いない。文中、読者が知らない用語や設定の数々があたりまえのように登場するのだ。
「白いの」や「赤いの」って何だ? ランスバール革命? タラスタッド平原の変? 十年地獄? 戦略級術式? いったい何のこと?
そう、この小説を読む者は、物語のはしばしに登場するひとつひとつの語句からそれが何を意味しているかを推理していかなければならないのである。
いうまでもなく、それ自体はそれほど斬新な手法ではない。しかし、そういった説明なしで放り込まれるオリジナルな語句から想像していくと、やがて、ひとつの重厚な「世界」が立ち上がってくる。
その「世界」は、リーングラードで繰り広げられる小規模な物語と比べて、あまりに壮大だ。いったい作者はどこまで考えているのだろう? そう問いたくなるほどに、表面的な物語と無関係な設定が充実している。
その「世界」の何と魅惑的なことか。しばらく読んでいると、物語の舞台が革命後の王国であること、その戦乱がきわめて過酷なものであったこと、そしてそれが他ならぬヨシュアンたちの活躍によって収束したことがあきらかとなる。
かれの一人称で読むかぎりなかなか剽軽な若者とも見えるヨシュアンが、その実、人間性が摩耗するほどの修羅をくぐり抜けてきたのであろうことも、そのうちわかってくる。
かれは「教えること」によってこそ、その修羅のなかで失われたものを取り戻す。教えることは教えられること。与えることは与えられること。ヨシュアンはいつかかれなりの「幸せ」を築くことができるのだろうか。
ぼくはまだこの物語の最新話に追い付いていない。だからここから先、どのような展開が繰り広げられるのか知らない。それが何とも楽しみだ。
堂々たる大長編の風格を備えた作品である。ぜひ、読んでほしい。ついでにお気に入り登録してポイントも入れていってほしい。損はさせない。いまどきめずらしい、長くなれば長くなるほどおもしろいロマンあふれる物語小説である。熱烈に推薦させていただく。
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