ゆっさんさん のコメント
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この記事は試験的に 「Something Orange」 と 「ゆるオタ残念教養講座」 で同時掲載しています。
『コードギアス 亡国のアキト 第一章「翼竜は舞い降りた」』を観て来た。うん、これはちょっと素晴らしいですね。四部作の第一章ということで、まだ総合的な評価を下すには早すぎるが、既に「傑作」の予感がする。
この作品はいうまでもなく数年前テレビ放映され絶大な人気を博したオリジナルアニメーション『コードギアス 反逆のルルーシュ』の映画化作品だ。
物語の背景はテレビ版第一期と第二期の間、黒の騎士団による〈ブラック・リベリオン〉が失敗を遂げたあと、宿敵枢木スザクに囚われたルルーシュがすべての記憶を奪われ沈黙を余儀なくされている時期。したがって、本作の主人公はルルーシュではない。新キャラクター、日向アキトである。
だからというわけではないが、この映画、間違いなく『反逆のルルーシュ』の番外編であるにもかかわらず、必ずしもあの作品のファンに向けて作られているとはいいがたい。少なくともこの第一章では『反逆のルルーシュ』のキャラクターはひとりも登場せず、舞台もいままでとは異なるヨーロピアン連合が選ばれている。
テレビ版ではついに描写されることなく終わったEUとはどのような国家なのか? それがひとつの焦点になっているのだ。つまり、テレビ版とは作品の志向するものが根本的に異なっているからである。
『反逆のルルーシュ』はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという天才的頭脳と壮大な野心を併せ持つ少年を主人公に、かれの悲劇的な「世界への反逆」を描いた物語だった。ひとりの無力な少年と世界的大帝国との対決という、誇大妄想的な気宇壮大さが魅力である反面、リアリティに欠けるところもあった。
『亡国のアキト』は違う。この作品の主人公アキトはブリタニア帝国によって亡ぼされ、属州〈イレヴン〉の民と呼ばれることになった日本人の少年である。自国の兵士の犠牲を望まないEUの市民感情により、使い捨ての道具として消費される過酷な立場の少年。
限りなくゼロに近い生還率のなか、それでも絶望的なサバイバルを続けるアキトの物語は『反逆のルルーシュ』に比べ、よりハードでシビアである。
家族のEU市民権という餌によって、ときに危険薬物を投与され、ときに絶望的戦場へ送りこまれて、権利も保証もなくその生命を使い捨てられる〈イレヴン〉の兵士たち、かれらの凄惨な描写は、『コードギアス』の世界をテレビ版とは別の角度から立体的に浮かび上がらせる。
これはルルーシュ=ゼロのように傑出した天才的英雄の物語ではなく、地獄の戦場であたりまえのように使い潰される亡国の兵士たちのエピソード群なのだ。
この低い視点の獲得によって、『コードギアス』はセカイ系的な誇大妄想の作品としてではなく、より重厚なバックボーンを備えた複雑な物語世界、いわば『コードギアスサーガ』の世界として再構成された。
むろん一時間程度の短い映画ではあるし、物語のこの段階ではまだわかっていないことが多すぎるのだが、それでも、テレビ版を補完する番外編としては上々という以上の出来だとはいえるだろう。
一本のアニメーションとして見ても、アキトが駆り、絶望的な戦略的劣勢を戦術レベルで逆転する〈ハンニバルの亡霊〉四足のナイトメアフレーム、アレクサンダのアクションは非常に格好いい。このアクションを見るためだけにでも劇場へ足を運ぶ価値はあるといっても過言ではないくらいである。
劇場の広いスクリーンのなか、悪夢の名をもつ戦術機たちは死のバレリーナさながら華麗に殺戮の舞踏を踊り、腐敗したEUと清新なブリタニアでは、それぞれに血みどろの陰謀が渦を巻く。そうして現れる新たな〈ギアス〉のもち主。かれの登場はいったい何を意味し、世界に何をもたらすのか? いまから続編が楽しみだ。
次回予告によると、次章以降では満を持してテレビ版の人気キャラクター、枢木スザクやC.C.が登場する模様である。来年の公開を楽しみにして待ちたいと思う。
あくまでテレビ版の存在を前提にした作品ではあるし、しょせんは「外伝」「番外編」「二次創作」であるともいえる。また、テレビ版第二期第一話で描かれたルルーシュの復活までのあいだにすべては終わるはずなので、『コードギアス』世界そのものを揺るがす大事件が起こるとは思われない。
しかし、それでもこれほど洗練された「外伝」はなかなか見られないということもたしかだろう。テレビ版未見のひともぜひここから見ればいい、といえるようなタイプの作品ではないが、少なくともテレビ版を見て何かしらの魅力を感じたひとは、見て損はない出来だとは断言できる。
『コードギアス 亡国のアキト』。それは、守るべき国を亡くし、頼るべき家族ももたず、たったひとり、いつか戦場に散るその日のために戦いつづける少年兵士の物語。果たしてアキトの行く手にはいかなる逆境が待ちかまえているのか? ぼくは必ず最後まで見とどけるつもりだ。
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