弱いなら弱いままで。
ニキ・ラウダ――有名なその男はある事故を契機にさらに有名となり、さらには伝説にまでなった。偉大なF1チャンピオンとして。そして、大炎上するレースカーのなかに取り残され、1分間にわたって全身を炎に包まれながらなお再起した不屈の男として。
『ラッシュ プライドと友情』は、そのF1史上伝説のヒーロー、ニキ・ラウダと、かれの永遠のライバルであるジェームズ・ハントの火花散るライバル関係を、実話をもとに描いた映画だ。
はっきり云っておくが、これこそは観ておくべき映画だ。アカデミー賞は獲れなかったようだけれど、そんなことは実にどうでもいい。少しでもぼくの目を信じてくれるなら、ぜひ上映期間中に観てほしい。これこそは何を置いても観なければならない映画だ。
まだ今年は11ヶ月近く残っているが、おそらく、ぼくのベスト・ムービー・オブ・ジ・イヤーはこれに決まりだと思う。それくらいハートにズドンと来る出来だった。
ひとの価値観は色々だが、この映画を大して高く評価しない人もいるとは思う。しかし、少なくともぼくにとってはこのレベルの映画はめったに出逢えるものではない。
監督は『アポロ13』など実録ものを多く手がけていることで知られるロン・ハワード。この稀代の名監督は実話をベースにフィクションを折り混ぜながら物語を組み立ててゆく。
かるくネットで調べたところによると、じっさいには、ラウダとハーバートは対照的な性格ながら気の合う友人であったらしい。
しかし、映画のなかのふたりはあたかも水と油、氷と炎、何もかも正反対でぶつかり合わずにはいられない関係だ。
ラウダは氷のように怜悧な頭脳を持つコンピューターレーサー。マシン整備に無二の天稟を持ち、名家の生まれで孤独な毒舌家。
一方のハントは自由奔放なプレイボーイ。酒とセックスを愛し、どこまでほんとうなのか、生涯で数千人の女性と寝たと云われている。
映画はこのふたりのスーパーレーサーの逸話をさらりと描きながら、一定の映画的リズムを刻みつつ「伝説の1976年」へ向けて加速してゆく。
1976年。その年、ふたりはカーレース史上にのこる熾烈なバトルを繰り広げることになる。序盤、ラウダはハントに大差をつけ前年度に続く二連覇に向け突き進む。
ところが、ラウダの炎上事故をきっかけに、ふたりの差は縮み、戦いはさらに白熱する。そして、最終戦、富士山の麓での日本グランプリへと至るのであった――。
映画はおそらくは最新の撮影技術を用いて1976年のF1シーンをヴィジュアル的に再現しながら、しかし、レースではなく、レーサーに焦点をあてている。
それもただふたり、ラウダとハントだけに焦点を絞り、ほかのレーサーのことはほとんど描写しない。したがって、この1976年のF1がどのようなものだったのか、映画を観終えても観客はほとんどわからないだろう。
それでいいのだ。あくまでこの作品の主眼はヒューマンドラマを描き出すところにあり、克明にレースを描き出すところにはないのである。
ラウダとハント。性格から哲学から何もかも反対で、逢えば罵りあい、互いに傷つけあうふたり。しかし、やがてかれらの間にはほかの人間には理解できないような深い敬意と友情が芽生えてゆく。
既にチャンピオンの座に輝いたラウダに取って、地上でただひとり宿敵といえる男、それがハントだったのかもしれない。映画を観終えたあとにはそう思える。
ハントはその天才的なドライビングテクニックとは裏腹に、
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