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愚鈍尊さん のコメント

あたりまえのことを丁寧に書いている良記事
No.15
39ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
 こんな記事を読んだ。  実は、インターネット上では滋賀県の女子高生は「日本一、制服のスカート丈が短い」といわれている。  統計があるわけではなく風評に過ぎないが、数年前にネット上にそんな「噂」が駆け巡った。こうした噂は歓迎できない影響をもたらした。  ネット上での風評拡大後、盗撮マニアが滋賀に集まり、電車内などで、県迷惑防止条例違反(盗撮)容疑で逮捕されるなどのケースが目立つようになった。県警によると、盗撮行為の認知件数は平成20年27件、21年29件、22年33件と増え、23年は28件と減ったものの、今年は8月末までで29件と、すでに昨年を上回っている。  また今年は、盗撮のほか、痴漢などを含む県迷惑防止条例違反が8月末までで111件。被害者のうち約40件が女子高生とほぼ3分の1を占めている。 (中略)  ただ、いくら防犯の啓発活動をしても、被害者となる女性自身も身を守ろうという意識を持たなければ効果はない。  県警の捜査関係者は「何よりも重要なのは、女性自らが自衛策をとること」と強調する。  被害者の中には、イヤホンで音楽を聴いていたり、携帯を操作していたりして、背後からきた犯人に気づかなかったケースもある。また、わいせつ事件の被害者は、制服姿のほか、ミニスカート、ショートパンツといった肌の露出が大きい服装である場合も多いという。  日本一スカートが短いから?滋賀“痴漢多発警報”の真相(http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20120922/dms1209220845000-n1.htm)  「場合も多いという」。いかにも「ミニスカート、ショートパンツといった肌の露出が大きい服装」が痴漢犯罪の原因となっているといわんばかりの書き方であるが、これは本当なのだろうか。  たしかに直感的には「そういう気はする」。しかし、ひとの直感ほどあてにならないものはない。「過激なゲームをやっていると犯罪行為への抵抗がなくなる気がする」という直感があてにならないのと同じことである。  そこで、何か良い資料がないかと思ってまずAmazonと図書館を探してみた。ぼくの予想では、痴漢問題を社会学的に研究した本が何冊か発見できるはずであった。ところが、見つからない。  国会図書館のウェブサイトでも検索してみたが、痴漢問題に関する論文こそいくつか見つかるものの、一冊をかけて痴漢問題を研究していると思われある本はさっぱりない。どうやら痴漢問題に関する専門書は現在、日本には存在しないらしい! 「痴漢冤罪」に関する専門書は軽く二桁は存在するらしいにもかかわらず、である。  むろん、痴漢冤罪も重要な問題ではあるだろうが、やはりこの格差はバランスの悪いというしかない。仕方がないから、ネットでブログ記事や論文PDFを探してみると、今度はいくつか見つかった。なかでも「痴漢に関する資料のまとめ」と題する記事(http://d.hatena.ne.jp/usausa1975/20120806/p1)は大変参考になった。  この記事で参照されていた「「女性に対する暴力」に関する調査研究」(http://www.gender.go.jp/e-vaw/chousa/08.html)によると、 女性(1773人)に、交通機関などの中や路上などで痴漢の被害に遭った経験の有無について聞いた。「1回あった」(17.0%)と「2回以上あった」(31.7%)を合わせた“あった”は48.7%となっており、約半数の人に被害の経験がある。   全女性の半分が痴漢被害に遭っており、また三分の一が複数回の被害に遭っているということがわかる。文句なしに深刻な事態だといえるだろう。  それでは、痴漢被害にあった女性は「隙がある」から、あるいは「服装が派手」だからターゲットに選ばれたのか。これは「平成22年6月から7月にかけて、大規模都府県警察において、電車内の痴漢行為で検挙・送致された者219人に対し担当取調官を通じて実施した」意識調査(http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/h22_chikankenkyukai.pdf)によると、必ずしもそうとはいえないことがわかる。  「なぜ、その被害者だったのか」という問いに対し、50.7%が「偶然近くにいた」からと答えているのにも比べ、「服装が派手だったから」という回答はわずか1・8%にすぎないのである。この数字は対象者219名中のたった4名しかこの答えを選んでいないことを意味する。「派手な服装をしていると痴漢されやすい」という「直感」は間違えているのだ。  しかし、ネットを見ているといまだにこの「痴漢神話」をあたりまえのように信じ込んでいる意見が見あたる。それらの意見はあたかも「痴漢されるようなふしだらな格好をしている女性にこそ責任がある」といわんばかりだ。  なぜ被害者であるはずの女性たちが攻撃されなければならないのか。ひとつには、一部の男性は女性により痴漢が問題視されると、まるで自分自身が責められているように感じるのだろう。だから「男性だけが悪いのではない」といいたくなる。  ぼくも男だからその気もちはわかる。しかし、あたりまえのことだが、痴漢の罪はその痴漢個人にあるのであって、男性全体にあるわけではない。べつにその痴漢に成り代わってぼくたち男性全般が責められているわけではないし、責められるべき理由もないのだ。そこを勘違いしてはならない。  痴漢に限らず、世の中には「この件は被害者のほうが悪い」というような論理は散見されるわけだが、その大半は単なる論理の倒錯である。加害とは「害を加える」と書き、被害とは「害を被る」と書くわけだから、いずれに否があるのか考えてみるまでもないと思うのだが、この単純な理屈がなかなか通じないらしい。  しかしまあ、ネットのアンダーグラウンドの住人たちはともかく、大半の常識的かつ紳士的な男性は「痴漢されるような格好をする女が悪いんだろ」というような乱暴な意見は取らないであろうと信じる。  ところが、そのようなまっとうな男性でも「痴漢が悪いことはもちろんだが、被害者の側にも服装の乱れなどの隙があったのではないか」というような一見「良識的」な意見を発するところがある。  「一見「良識的」」と書いたのは、これが表面的には反論しづらい意見だからである。どんな事件であれ、被害にあったからには被害を避けられない状況にいたことは事実であろう。たとえば地下100メートルの孤絶した核シェルターにひとりこもっているというような状態であれば、まず犯罪被害者になろうとは思われない。  しかし、そんな極端なシチュエーションでなければ、被害者は何らかの「隙」を抱えていたということになる。だが、そもそも痴漢犯罪の場合の「隙」とは具体的に何を指していうのか。  「派手な服装」がじっさいにはほとんど痴漢誘発原因となっていないことは前述した通りである。「神話」とは違い、現実にはほとんどの痴漢事件は「偶然近くにいたから」といった被害者が避けようがない理由で起こるのだ。  しかも、この「隙」は事件からさかのぼって発見されえる性質のものである。「じっさいに事件があったのだから、何か被害者に隙があったに違いない」という憶測からさかのぼって被害者を見つめれば、それはたしかに何かの「隙」が見つかるかもしれない。  とはいえ、武術の達人ではあるまいし、全く「隙」のない人間などいるだろうか。服装、態度、姿勢などあらゆることが「痴漢される理由」になりえる以上、「隙」などどうにでも見つけられるといえる。  「加害者も悪いが、被害者にも悪いところがある」といった「中立」の意見は、じっさいには加害者を利し、被害者を追いつめるものである。厳しく慎まなければならない。  そういうわけで初めの話に戻るが、滋賀県で痴漢犯罪が多発しているのはべつだん女性の服装が原因ではないと思われる。卑劣な痴漢犯罪を指弾する前に「女性の側の否」を責めるのはセカンドレイプならぬ「セカンド痴漢」とでもいうべきだ。被害者はあくまで害を被った立場なのだというあたりまえの事実を忘れないようにしたいものである。  それが本当の良識というものではないだろうか。
弱いなら弱いままで。
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