今回は宮島理さんのブログ『フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997』からご寄稿いただきました。
■仕事ではなく身分が欲しい日本人
非正規・正規の公平性、解雇規制緩和、最低賃金制廃止といった労働市場制度改革は正攻法である。しかし日本では支持されない。なぜなら、日本人は仕事ではなく身分を欲しているからだ。
日本維新の会の政権公約が批判されている。とりわけ、労働市場制度改革の評判が悪い。朝日新聞も「最低賃金廃止、橋下氏『雇用狙い』 維新公約に波紋」*1 と批判的な見出しである。最低賃金制廃止以外にも、日本維新の会は非正規・正規の公平性と解雇規制緩和を打ち出し、労働市場の流動化*2 を公約としている。
*1:「最低賃金廃止、橋下氏「雇用狙い」 維新公約に波紋」2012年11月30日『朝日新聞』
http://www.asahi.com/politics/update/1130/OSK201211300088.html
*2:「日本維新の会」2012年11月30日『朝日新聞』
http://www.asahi.com/politics/intro/TKY201211290568.html
こうした労働市場制度改革は、自然失業率を下げるためには必要な改革だ。景気対策をすれば一時的に雇用は増えるだろうが、自然失業率は変わらないので結局その雇用は持続しない。労働市場制度改革で自然失業率を下げ、その他の規制緩和と合わせて潜在成長率を上げていくことが、雇用創出と日本経済の再生には欠かせない条件である。
日本維新の会の言う通りに労働市場制度改革を実行すれば、正社員の立場は不安定になるだろう。一方で、最低賃金廃止と解雇規制緩和により雇用は増える。若年層やリストラ中高年層のチャンスも大きくなる。また、非正規・正規の公平性が実現すれば、非正規が昇給・昇進する道も開ける。
企業は労働者の生活を保障しなくなるから、これも日本維新の会の政権公約にあるように、「負の所得税」により国が最低限の生活を保障する。労働者は企業に生活を握られなくなるので、「社畜」となって働く必要もない(企業側も、身分=人間を奴隷化するのではなく、仕事への対価を払っていると考えなければならない)。労働市場の流動化で転職もしやすくなるから、自分のキャリアを自分で設計することもできる。自分の本当にやりたい仕事や収入を望む労働者にとっては、労働市場制度改革は大きなプラスとなる。
ところが、労働市場制度改革は確実に雇用を増やすのに、なぜか日本では支持されない。それは、日本人の多くが仕事ではなく身分を欲しているからだと思う。つまり、現在の正社員のように身分として雇用と収入が安定していることが重要なのであって、それ以下の収入や不安定な雇用については、「何の足しにもならない」と考えられている。もちろん、「やりたい仕事をやるためなら……」という発想は希薄だ。
実際、そうした声に押されて2008年の年末には派遣村が登場し、日本人は「正社員か無職か」の二択人生を要求した。学生や主婦(主夫)を除くと、パートやアルバイト、契約社員、派遣社員(非正規は既に解雇規制が緩い)、それから私のような業務委託になるくらいなら(業務委託には最低賃金すらない)、いっそのこと無職でいた方がマシだと考える人が少なくないようなのである。
そのくせ、無職が生活保護を受けているとバッシングされる。ということは、「正社員か死か」という究極の二択人生が日本人の“理想”なのかもしれない。こうした“理想”が、多くの失業者を自殺に追いやっている。いずれにしろ、“世間体”という精神が日本の労働市場制度改革を阻んでいる限り、日本経済の再生は遠いように思う。
執筆: この記事は宮島理さんのブログ『フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997』からご寄稿いただきました。
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