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話題騒然『日本で一番悪い奴ら』白石監督インタビュー「こういう映画を学校の教材にして欲しい(笑)」
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話題騒然『日本で一番悪い奴ら』白石監督インタビュー「こういう映画を学校の教材にして欲しい(笑)」

2016-07-06 15:30
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    やらせ捜査が発覚し<日本警察史上の最大の不祥事>といわれる実際の事件を題材に、北海道警察・刑事の壮絶な26年間を描いた『日本で一番悪い奴ら』。綾野剛さんの体当たり演技がすごすぎる、警察の汚職事件なのに爽快感がある! と現在大ヒット上映中です。

    本作を手掛けたのは、2013年に監督した『凶悪』が第37回日本アカデミー優秀監督賞・優秀脚本賞をはじめ、数々の映画賞に輝いた、白石和彌監督。『凶悪』が大傑作だっただけに、否応無しに高まる次回作への高い期待を、新しい形で越えてきた本作。「『日本で一番悪い奴ら』は警察映画でありギャング映画」と話す白石監督に色々とお話を伺って来ました。

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    ―作品拝見しまして、大変面白かったのですが、実際に起きた犯罪をベースにしている映画なだけに“面白い!”と思うのは不謹慎かな? とも思ったりして。でも面白いと思っていいんですよね……?

    白石監督:もちろん! 全く不謹慎では無いですよ。

    ―こういった実録モノを、この様に面白く撮ろうと思った理由はありますか?

    白石監督:この映画は北海道警察で実際に起きた事件を基にしていて、逮捕者も出ている、起ってはいけない犯罪を描いてはいるのですが、そこで行われていた事ってすごく楽しかったと思うんですよね。普通の刑事って、マル暴(※)とかやっていても、生涯に摘発する拳銃って10丁もいかないんですよ。10丁あげたら普通は凄いね、と褒められるレベルみたいで。でも、稲葉さんって(本作の主人公・諸星の基になった人物)100丁以上あげているんです。そのテンションって何なのかというと、単純に「気持ちよかった」としか思えないんですよね。摘発したって、拳銃一丁につき、数万円しか謝礼がもらえない、名誉欲といってもさほどでは無い。ひたすら面白かったんだろうとしか、僕には思えなかったんですよね。

    ヤクザのS(スパイ)と一緒に拳銃摘発して、その後美味いもの食って、良い女を抱いてっていう。それは警察だから不謹慎と言われると思うけど、人間としては、すごく欲望に忠実で健全なんじゃないかなと思って。その一点で、この映画を作りました。

    ※編集部注:マル暴とは、暴力団対策を担当する警察内の組織や刑事の事。

    ―人間として欲望に忠実だからこそ、なぜか彼の事って全然憎めないんですよね。

    白石監督:そう。実録警察モノだからといっても、警察はこんな悪い奴らなんですよ、って事を描きたいのではなくて、一人の男の人生を描きたかった。人との出会いがあって、チームで仕事をしていたのに、その人達全員がどんどん離れていく。これって、どんな人間にも訪れる事だと思うんです。(諸星は)警察という組織の中で、忠実に仕事に取り組んだ結果、振り返ってみると自分のいる場所が変わっていたというふうに感じました。

    ―実際の事件について、白石監督は当時覚えている事はありますか?

    白石監督:2002年に稲葉さんが捕まって、その時はさほど大きく報道されなかったんですけど、その後に稲葉さんの元上司である原田さんが「稲葉は捕まったけど、個人でやったわけでは無くて組織でやっていたんだ」と裏金について告白したんです。それが大きくニュースになって、僕は北海道出身という事もあって印象的でした。ただ、稲葉さんがどういう経緯で拳銃100丁以上をあげて、エースと言われ、どんな汚職をしたのか、というのは知らなかったです。

    ―白石監督は、メジャーデビュー作の『凶悪』が大ヒットし、様々な賞を受賞しました。その後に撮る作品という事で、結構悩まれたのでは無いでしょうか。

    白石監督:『凶悪』(2013)が幸いにも、皆さんのおかげで評価をいただいて、次に何を撮ろうとはずっと考えていました。それで、いろいろな方から「こんなのどうでしょう?」って持ってきていただく本や企画が、『凶悪』の様な犯罪モノ、クライム・サスペンスが多くて。でも、僕は『凶悪』で全てをやりきったとは言わないですが、罪と罰の話を今作ってもあまり見栄えはしないだろうと思いました。そんな時に、本作で脚本を書いてくださった池上さんにこの作品の原作を薦めていただきまして、これなら面白くなるんじゃないかなと思いました。これって警察映画でありながら、ギャング映画なんですよね。

    ―警察映画でありながら、ギャング映画! そのお言葉を聞いて、とても納得しました。

    白石監督:日本はギャング映画ってジャンルが成立しないんですよ。日本のギャングっていうとヤクザ映画になってそれは別ジャンルなので。だから、警察の映画を撮ってギャング映画になるなんて思ってもみませんでしたね。これだったら、エンタテインメントになるし、先ほど言った男の人生を描く事が出来ると思いました。

    ―主人公は綾野剛さんだと、すぐに決まったのですか?

    白石監督:日本アカデミー賞に『凶悪』で出席した時のパーティで、リリー・フランキーさんに綾野剛君を紹介いただきました。その後、『そこのみにて光輝く』等で、たくさん受賞をして、日本で一番ノっている俳優さんになりましたよね。そこで、『日本で一番悪い奴ら』を描くには“日本で一番ノっている奴”にやってもらうべきだろうと。こういう実録モノで、ピカレスク作品って、今の日本では作りづらくなっているのですが、それが無事に制作できた所が、綾野剛って持っているんだなと思いました。覚せい剤を打つシーンもあるので、断られるかな?と思っていたのですが、本を読んで3日後には綾野君から「やります」と返事をくれて、おお〜!って(笑)。

    ―すごい決断が早いですね。綾野剛さんじゃないともっと暗くてジメっとしたお話になる気もしました。

    白石監督:そうですね。あと、実際に稲葉さんって、捕まった時に8人くらい彼女がいて、そのうち2人が婦警さんだったらしいんですけど、色男なんですよね。そういう意味でも色気のある綾野剛君がピッタリだったと思っています。

    ―中村獅童さん、YOUNG DAISさん、デニス植野さんとのチーム感も素晴らしかったです。

    白石監督:ギャング団を結成するにあたって、色々なジャンルの人を集めたいなと思っていたんです。主人公は警察官だけど、関わっているのがヤクザだったりパキスタン人の密売人だったりするので、“雑多感”を出したくて。その方が、ブルドーザーの様に物事が進んでいく雰囲気が出るんじゃないかなと。なので、歌舞伎役者、ミュージシャン、お笑いの方に集まっていただきました。

    ―お笑いの方って、なぜか悪役をやらせるとハマりますよね。不思議です。

    白石監督:そうですね、確かにすごくハマりますね。自分の見せ方とか、笑いを取るっていう事に対する表現の仕方が上手いんでしょうね。別作品ですが『火花』というドラマを撮る際、何人かのお笑い芸人の方と会いましたが、皆さんアンテナの張り方が特殊なんだと思います。

    一方で、DAISはミュージシャンなので、海外に行ってラップをやったり、悪い世界に片足突っ込んでいるようなニオイを漂わせているのが抜群だったんです。本当に友達が多くて顔が広く、なによりたくさん情報持っていそうだし(笑)。綾野君と植野さんとDAISって同世代なんですよ。でも3人ともキャラクターが全然違っていて、すごく面白かったです。

    ―4人でキャッキャはしゃいでいるシーンが多くて、青春感もありました。特に、蟹を食べながら拳銃で遊ぶシーンがすごく面白くて。

    白石監督:大丈夫だと思っていたら、拳銃を打ってみたくなりますよね。遊んでいるメンバーの中に警察官がいれば、間違っても逮捕される事は無いから絶対打つでしょ(笑)という。ああいう風に、キャッキャ楽しそうにしているシーンっていくつか入れたんですが、最後には悲劇が起こります。でもそこに至るまでには多幸感にあふれた時間があって欲しいと思うんですよ。今、世の中がすごくイジメ社会になっていて、すぐに炎上したり、不倫でダメになるとか、どうでもいい事を騒ぎ立ててる気がします。。不倫は悪い事だけど、そこまでの人生全部否定されるのかといったらそうじゃないですし、稲葉さんも悪い事をしたけど、拳銃を100丁以上あげた事実はあるし、それに乗っかっていた警察もいたんですから。隠したい事もあって、誇りたい事もある、それが人生なのかなと僕は思うんですよね。

    ―私もあの状況だったら絶対に撃ちます(笑)。「隠したい事もあって、誇りたい事もある」すごく素敵な表現ですね。

    白石監督:僕もずっとインディーズ映画の助監督をやっていて、低予算で作っているものだから、色々な障害が出て来て、例えば道路で撮影している時に、その道を通ろうとしている人を強引に止めたりする。それって今考えると絶対やっちゃいけない事なんですけど、僕にとっては映画が全てだったから「映画の撮影を邪魔する人」にしか思えないわけです。一歩離れてみると、それって頭のおかしい事だし、徹夜して映画編集するとかも労働基準法違反ですよね。それって、皆さんも結構あると思うんですよ、原稿の締め切りが迫っているから何日も寝ないとか。常識外れな事だけど、自分にとってはそんな事は関係無い。彼ら(『日本で一番悪い奴ら』の登場人物)も同じだったと思うんです。周りから見ると常軌を逸しているけど、自分の仕事に邁進するというある意味幸せな行き方だなと。稲葉さんって別の業界にいても、絶対エースになっていたと思いますよ。

    ―ストーリーも演出も役者さん達の演技も全てが素晴らしくて、どの要素も完璧に絡み合っている様に感じたのですが、制作で迷った事はあったのでしょうか?

    白石監督:最初、三時間半の超傑作な初稿が出来上がったんですけど、さすがに二時間ちょっとにしなくてはいけないなと。至極のエピソードの数々を削るのは辛い部分ではありました。長くなった物を削る時って、つじつまが合わなくなるんですけど、諸星がずっとブレずに諸星でいてくれるので、そういう部分では問題無く。後は、警察をちょっとバカにしすぎたかな、という小さな迷いはありますが(笑)。

    ―(笑)。でも、覚せい剤の描写とか恐ろしく描いていますし、いっそ警察には「覚せい剤防止」のポスターをこの映画で作って欲しいです。

    白石監督:そうですよね、覚せい剤の事をちゃんと悪く書いているし、こういうのを学校の教材にして欲しい(笑)。これ観たら若い子は絶対、覚せい剤をやりたい気持ちにならないと思います。とはいえ、警察の悪行を暴くとか、社会正義な映画にしたい気持ちなんてさらさらなくて、そこに至るまでの男の人生を人間くさく描きたかっただけなんです。モデルとなった稲葉さんが生きてきたエネルギーって凄まじくて、皆はそんなにエネルギーを持って生きているのか!と言いたいわけです。

    ―もう絶対劇場で、この凄まじいエネルギーを感じて欲しいですね。今日は楽しいお話をどうもありがとうございました!

    【関連記事】映画『凶悪』白石和彌監督インタビュー「失われた骨太な日本映画を取り戻す」
    http://getnews.jp/archives/421283 [リンク]

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