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5月7日の第2回大統領選国民投票に向け、荒れに荒れているフランスの政治情勢。2017年は初っ端から警官による黒人青年暴行事件、中国人射殺事件、そして大統領選関連とデモ等を通じて民衆の激しい怒りが噴出する場面が非常によく見られた。何故そこまでフランス人はデモを起こすのか、また何故デモはそこまで荒れるのか。今回、3月下旬にパリで発生した中国人射殺事件に関連する一連のデモについて、現場に遭遇した筆者の視点からその一端をお伝えしたい。

3月26日夜、パリ北東部に住む中国系の移民男性が自宅アパートで通報を受けて来た警官に射殺されるという事件が起きた。通報理由は「揉め事が起きている」というもので、射殺理由は男性が警官に対し「はさみで抵抗した」というとの事だ。
しかし、男性の家族によると男性は「はさみで魚の調理をしていただけ」と主張。双方の意見は大きく食い違った形となった。
これを受け、パリでは中国系移民による大規模なデモが展開される。今年に入ってから黒人男性が警官から暴行を受けるなど、警察に対する不信感が大きいパリでの出来事だけに、多くの注目が集まっていた。

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4月2日日曜日、筆者がデモの現場となっているレピュブリック広場(Place de la République)に到着した頃には、既に警察が続々と集結し交通を規制を開始していた。しかし、この段階ではまだ目立った衝突は発生しておらず、比較的平和な空気が流れていた。

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ちなみにこのレピュブリック広場は15分程離れたバスティーユ広場と並んでパリ屈指のデモ発生箇所。中央にはフランスという国家を擬人化したマリアンヌの巨大な像が鎮座しており、側面には近代フランスの象徴的シーンがレリーフでかたどられている。フランス最大で世界最古の通信社、AFP通信によるとこの集会には6000人が参加したという。

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広場の中央では、中国語とフランス語で「真相 公正 尊厳」とかかれた大きなポスターが至る場所に設置されており、また犠牲者を追悼するロウソクが数多く並べられていた。
また事件の鍵となる「はさみ」も、このレピュブリック広場の至る場所に飾られており、参加者達の間で一種の「シンボル」のようになっていた事が印象的だった。

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また街路樹など至る所に今回の事件で亡くなったShaoyo Liu氏の写真が掲示。さらに写真の下には「注意。はさみを持っていると警察はあなたを殺します!」というビラが貼られていた。

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そして経緯は不明だが、続々と広場に集結する抗議デモ参加者達をなだめるかのように、オーケストラが路上ライブを開始。ドヴォルザークなどを演奏し、その美しい音色にひとときの間、物々しい雰囲気の広場に静寂がもたらされたかのようだ。

しかし、そんな事も束の間。どんどん増えるデモ参加者と警察の間で、遂に衝突が始まった。

突然始まった機動隊との衝突

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レピュブリック広場の北側で、ひときわ大きな抗議活動が行われ始めた。中国系の若者たちが拡声器を使って‘Police assassins!’(警察は暗殺者!)というスローガンを基に、警察の非情さを訴えていた。すると一部のエスカレートした若者が、近くからゴミ箱を持ってきてひっくり返し始めた。

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道路を挟んで広場と反対側の歩道には、暴徒鎮圧用装備で全身を保護した機動隊が多数睨みを効かせている。

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すると抗議の声が一層大きくなり始め、ついに誰かがモノを警官に向かって投げ始めた。
投げれるものは本当に何でも投げると言った風で、ゴミ箱から拾った空のペットボトル、空き瓶などのただのゴミから始まりトマト、卵、植木鉢、と何でもありな状態。

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デモ参加者の大半は中国系とみられたが、多くの白人も抗議に参加していた。もちろん、このデモを報道しようと多数の報道陣が取材を行っていた。多くはガスマスクなどで完全防備。

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デモ参加者のほとんどは、マスクやハンカチで口を保護していた。警官から投擲される催涙弾から身を守るためだ。また身元を画す意味合いもあるだろう。

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投げるものが無くなると、また誰かがどこからからゴミ箱を持ってきてひっくり返し、中のゴミ箱を投げるという構図が延々と続く。機動隊は最初は静観していたが、しばらくすると催涙弾を群衆に向かって撃ち込み始めた。

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催涙弾を受け、一斉に走って逃げ出す抗議者達。風向きにもよるが、至近距離でまともにガスを吸うと猛烈な目の痛みと鼻と喉のしびれ・痛みが襲いかかる。

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中には撃ち込まれた催涙弾を蹴って警官の方に送り返す抗議者も。多くが若者だが、中には高齢の白人男性もいた。

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気がつくと辺り一面は投げられたゴミと割れたガラス、催涙弾の残りカス、破壊された標識などでゴミだらけになっていた。

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機動隊もジリジリと抗議者集団に迫り、人だかりが出来ると直ぐに催涙弾を撃ち込んで散開させる。

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ここで異様な光景が見られた。

警官に向かっては絶えず大量のトマトや空き瓶が投げ入れられるのだが、重装備の機動隊とはいえ当たれば怪我だってする。
1人の警官が負傷したらしく、歩けなくなっているところをメディック警官が助け出すとデモ参加者からは大きな歓声が沸いた。まるで敵を討ち取ったかのような歓声は、酷く異様なモノに感じられた。

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地面には警官が投げた催涙グレネードの殻が散乱する。

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30分ほど経過し、広場の群衆が落ち着いた頃、広場から離れた路上で再び中国系の集団が抗議活動を再開した。
こちらは先程より距離が近く、まさに一触即発の状態。青筋を立てて抗議する中国系集団に警官が近寄る。

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カフェのテラスにいる集団を崩すため警官がジリジリと近づき盾で威圧し始めると、怒りが頂点に達したのか中国系の集団がテラスにあった椅子を警官隊に投げ込んだりし始めた。これに対し警官隊は手持ちの催涙ガスを吹きかける。そして揉み合いの乱闘になると警棒で殴る、吹っ飛ばすの排除行動に出たのだ。ものの数分で警官隊はカフェを制圧し、人々はちりじりとなって逃げていった。

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ゼロ距離でまともに催涙ガスの直撃を受けた抗議者達は、その場で嘔吐。非情につらそうに吐き続けていたり、目の周りを真っ赤に腫らしながら去って行った。ちなみにこの際には拘束者は出なかったが、最終的には今回のデモでは多数の拘束者が出たという。

その後デモは鎮静化し、大きな集団が形成されることもなかった。警官隊は車両に乗り込み次々と帰って行く様子を見届け、筆者も帰路についた。

このデモを通じ、民衆の警察に対する不信感はハッキリと伝わってきた。既に黒人青年が暴行を受けた『テオ事件』で一度警察に対する怒りは頂点に達しており、今回のデモでは中国人という新たな社会集団が団結し、デモを行ったという点が混迷するパリの政治状況が新たな次元に突入した事を示している。中国系のデモ参加者は胸に”Je suis chinois”(私は中国人)というシールを付けており、エスニシティでの団結を鮮明にする姿勢が見られた。勿論、金髪碧眼の白人やアラブ人といった人たちもデモには参加していた。

ルペン率いる国民戦線は、過激で排他的な民族主義を標榜する。それに対する潜在的な危機感が、いよいよ明確に現れてきているようにも感じた次第であった。

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