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巨大な宇宙船の襲来と地球外の知的生命体とのコンタクトというSFの王道的な設定と、ヒロインの人生の物語という全く異なる2つのストーリーを繊細に絡ませた超傑作『メッセージ』。先週末に公開され、観た人からは「深すぎる……」「見た人と語り合いたい」と絶賛の声が相次いでいます。

映像化不可能と言われた原作小説『あなたの人生の物語』を見事な映像表現で映画化したのは、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。『プリズナーズ』『ボーダーライン』とジワジワ系の名作を世に送り出してきた監督であり、来年公開の『ブレードランナー 2048』監督に大抜擢されたことも話題になりました。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督に作品についてはもちろん、宇宙船が「ばかうけにソックリ」なことについてもお話を聞いてきました。

メッセージ
――本作大変素晴らしい作品でした。『メッセージ』が公開前から「宇宙船が“ばかうけ”に似ている」と日本で話題になっている事を聞いてどう思いましたか?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督:誰も見たことがない形状を目指して宇宙船のデザインは生み出したつもりだったんですけど、世界の反対側(日本)ではポピュラー・スナック……みんなが知っている形状だったなんてね(笑)。

――とはいえ、とはいえですよ! 日本にはたまたま「ばかうけ」が存在していただけで、『メッセージ』の宇宙船デザインの独創性は凄まじいと思いました。何に制作のヒントを得ましたか?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督:あえて言うのであれば、フランスの漫画家メビウスに影響は受けていると思います。あの不思議だけど完ぺきな形状は何らかの形でメビウスとつながっていると思います。あと、先日リサーチをしていて気づいたのですが、自分がもともと大好きなノルウェーの画家であるオッド・ネルドルムの絵に描かれている暗い雲が『メッセージ』の宇宙船と同じ形をしていたので、もしかすると彼の絵のことも無意識のうちに参考にしていたのかもしれません。自分でもときどき、どこからアイデアが来ているのか分からない事があって、直感でデザインしたというのが正直なところなんですけどね。

私の作品の美術をずっと担当している、パトリス・ヴァーメットとデザインを作りました。原作では「巨大なスクリーンのような」と表現されている船内のインスピレーションとして、パトリスも私も、ひとりのアーティストの名前を挙げたんです。それがジェームズ・タレルでした。

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督:ヘプタポッドや宇宙船の形状、船内のデザインは、観客が無意識のうちに「死」を想起するようなものを目指しています。それはルイーズが「死」というものと対話するからです。本作は、そのルイーズの死との対話を通して、人生、あるいは生きるということを抱擁できるというストーリーだと私は思っています。

―ヘプタポッドの文字はどのようにデザインしていったのでしょうか?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督:原作に登場するヘプタポッドの言語の本質が円だったので、映画でも円にしなければいけないというのは理解していました。私のイメージでは、それはとても純粋かつコントロールされたものだったんです。アーティストのマルティーヌ・ベルトランドがインクのはね、シミのようなものを使ったデザインを提案してくれて、「ロールシャッハ・テスト」の様に、見る人によっては文字であったり、悪夢であったり、いろんなイメージを想起させるような部分もとても気に入りました。ただ、形をそのままデザインとしてヘプタポッドが毎回書くとなると時間がかかってしまうので、彼らの手足のような体の部位からインクが噴出して、空間に言葉として描かれていくという方法を採用したんです。結果的に、奇妙で美しい表現ができたと思っています。

形状を決めたあと、パトリスをはじめとしたデザイナーのチームが、ちゃんとロジックのある言語を作り上げて、小さな辞書みたいなものまでできていたんですね。それを見て、スタッフもキャストも本当に驚いていました。言語学の専門家も関わっているので、信憑性のある言語になっています。さらに、ヘプタポッドの言語を翻訳するコンピューターのプログラムは、有名な理論物理学のスティーブン・ウルフラムがデザインしていて、ちゃんとそういった言語を理解するソフトウェアが現実にありえるように完成させてくれました。スタッフの中には、そういった作業をものすごく楽しんでいる人たちがいました。

メッセージ

―監督はSFというジャンルにどの様な魅力を感じますか?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督:自分にとってSFの最大の魅力は、子ども時代の記憶とリンクしていることです。私はカナダの小さな街で生まれ育ったのですが、冬がかなり長いので、家でSFに触れていると逃避にもなりましたし、自分の周りの世界を理解する手段にもなりました。もしかしたら観客にとって難しい、つまらないトピックが扱われていたとしても、詩的な距離があることで入り込めたり、掘り下げたりできるというところが、SFの魅力だと思います。そして、自分が惹かれるのは、たとえば戦争だったり、ハイテクノロジーだったりではなくて、もっと実存主義的な未知を模索するようなSFです。

スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』を初めて観た時のことをよく覚えているんですが、高所恐怖症になったかのような気持ちになりました。その恐怖心というのは、『2001年宇宙の旅』が何か自分では触れることのできない、理解することのできない、そういうものを描いているひとつのアート作品だったからだと思うんです。その時に感じた美しいまでの恐怖心に自分は虜になってしまい、SFが好きになりました。

誰も見たことがないような文明、あるいは人間の法であったり、重力であったり、化学物質であったりとはまったく違う、異次元の方法論や世界から来ているために私たちが理解できない神秘というものが、『メッセージ』では少しずつ明かされていきます。そういったところに、自分のSFへの思いというのは表現されているのではないかと思います。本作で自分が好きなのは、どういう風に旅をしてきたのか、どういう言語を使うのかもまったく理解できない未知の文明を前にしたときに、すごく謙虚な気持ちになるルイーズたちなんです。

メッセージ

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督:映画の脚本からデザイン、コンテ、撮影としていく中で、いろんな人に言われたのが「宇宙船の中をもっと見せてくれ」ということだったんですが、私は拒否しました。なぜなら、ミステリーのままにしたほうが、より強い作品になると思ったんです。私はスティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』が大好きですが、クライマックスで船内を見せてしまうのは間違いだったと思います(笑)。『2001年宇宙の旅』でスタンリー・キューブリック監督は、エイリアンのデザインはしていたらしいのですが、登場させないほうがよりパワフルな作品になると判断して、最終的には登場させなかったそうです。それは英断だったと思うのです。

―監督は宇宙人、地球外生命体はいると思いますか?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督:いてほしいと思っています。宇宙に私たち地球人しかいなかったらがっかりしますし、人類のナルシシズムにとっても良くないと思いますね(笑)。私の実存主義的な観点から見ても、この宇宙に地球外生命体が存在していないというのはありえないと考えていますし、良くないことだと思っています。本作のように地球へ突然やって来るかは分かりませんが、何らかの地球外生命体はいると思いますね。植物のような存在なのかもしれませんけど、いてほしいです。「いるかもしれない」という可能性こそが美しくありませんか?

―私も心からそう思います。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

▼ドゥニ監督、樋口真嗣、前田真宏による豪華SFトークショー動画。超面白いから観てくれよな!
https://www.youtube.com/watch?v=UG6tFauD3hk [リンク]

『メッセージ』
http://www.message-movie.jp

RSS情報:http://getnews.jp/archives/1750875