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ウルトラマンじゃなくておれが泣く:『ウルトラマンが泣いている』
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ウルトラマンじゃなくておれが泣く:『ウルトラマンが泣いている』

2013-07-03 14:30
    ウルトラマンじゃなくておれが泣く:『ウルトラマンが泣いている』

    今回はmacgyerさんのブログ『冒険野郎マクガイヤー』からご寄稿いただきました。

    ■ウルトラマンじゃなくておれが泣く:『ウルトラマンが泣いている』
    あちこちで話題の新書『ウルトラマンが泣いている』を読んだのだが、暴露本というよりも「嗚呼、やっぱり」感が濃厚に漂う本だった。

    「ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 (講談社現代新書)」 円谷 英明(著) 『amazon』

    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062882159/

    著者の円谷英明は初代社長 円谷英二の孫であり、二代目社長 円谷一の息子にあたる。シャイダーを演じた円谷浩の兄にあたる。

    本書では前書きと目次の後、円谷一族三代の家計図がわざわざ示される。何故か。本書で記されるのは、祖父 英二と父 一の業績への賛辞、そして叔父であり三代目社長を務めた円谷皐の放漫&ワンマン経営への呪詛、その後社長を継いだ兄 昌弘と著者がどれだけ奮闘しても経営を立て直せなかった苦悩、そして社内クーデターと外部資本による会社乗っ取り……等々である。更にその結末は、本書の帯に書かれた一文通りだ。

    つまり本書で描かれるのは、円谷ファミリーによる勝者無き覇権争いなのだ。

    著者の叔父 皐に対する憎悪は相当なものだ。

    『80』以降、十数年に渡って国内で新作ウルトラマンを製作できなかったのは、皐社長が「我々の作ったウルトラマンをどうしてくれるのか?」編成局長に激昂し、「お前の作ったウルトラマンじゃないだろう」という返された挙句、役員室に出入り禁止となってしまったからだという。

    皐社長の時代、経理部の片隅には海外でウルトラマンを放送した際の放送権収入やグッズ収入の入金記録や領収書を入れるためのダンボール箱があり、社長と担当重役以外はノータッチ。それらはハワイやラスベガスでの経営陣の遊興費に使われたという話は恐ろしい。同族経営の中小企業にありがちな話だ。

    そういえば自分が高校生くらいの頃、トーク番組にゲストとして出演した円谷皐が得意そうに歌を唄った後、これが「僕のウルトラマンなんです」と青いウルトラマンを紹介していて「ウゲー、こんな金満ウルトラマンやだー!」と感じた記憶がある。ウルトラマンヒカリが出た時もその青ウルトラマンを思い出したのだが、今ネットで調べたら、その金満青トラマンは杉山清貴が円谷皐を偲んでつくった曲のお礼に使用権利を与えられたというウルトラマンキヨタカだった。ちょっと記憶が不確かだなぁ。

    その他、皐社長の海外旅行好きや資産取得への拘り、円谷音楽出版への株譲渡、ウルトラマンランドでの不正や赤字なのにクローズできない問題、実兄のセクハラ事件、一夫社長によるブースカCM等々……「噂では聞いていたけど、やっぱり」感溢れる話がいっぱいだ。

    「【特撮リボルテック】003 快獣ブースカ■おとなの夢みるおもちゃ!海洋堂 フィギュア」 『amazon』

    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B007ZLPZ8E/

    色々と漏れ聞こえていた話が多いのだけれど、まがりなりにも社長を務めた人物が書籍の形で記すというのはインパクトが違う。祖父や父の偉業が割合さらりと描かれるのに対し、リアルタイムで体験したであろうこれらの醜聞は、気持ちが入っているのか筆致が違う。金額がやけに具体的なのもリアルだ。

    一方、それとは別の問題として、円谷プロ創業時から続く高コスト体質にもきちんと言及されている。

    『ウルトラマンガイア』が終了する間際、円谷プロはたいへん漢らしい映像製作集団であるという話を聞いた。特撮ドラマは普通のドラマ以上にカネがかかる。ウルトラシリーズはテレビ局から貰う制作費だけではとうてい作れず、放送中の円谷プロは基本的に赤字で、その後何年もかかってグッズの売り上げ等で利益を回収していく、だから平成三部作がどれだけ好調でも、一度経営状況を立て直すまで新作が作れないのだという話だった。

    本書に書かれているのは、円谷プロの放漫経営の実態だ。製作陣は、グッズが売れればカネは入ってくるのだからと制作費を使いまくる。経営陣は、クオリティの高い作品を作るためにはそれも止むなし、と認める一方、きちんと支出と収支のチェックをしない。円谷プロ創業時から変わらない体質だ(2000年代に入っても帳簿を電子化しない、というのは中小企業によくみられる光景だ)。円谷プロに復帰した著者が平成三部作の番組ごとの収支をきちんとチェックしたところ、実際には大赤字だったという。全然回収できていなかったのだ。

    経営陣はこの問題を早くから認識していて、一が作った『帰マン』の企画書には「製作現場の合理化によりスピードアップとローコスト化を実現します。これまでの円谷作品とは違います。制作費はずばり380万円でOK!」と書かれている。でも30年経ってもこの問題を解決できなかったわけだ。

    更に、番組放映が終わると、玩具の売り上げが極端に落ちてしまう。玩具会社はそれを理解していて、番組終了の三ヶ月前から発注を手控えるようになるという。

    終盤に書かれている『五龍奇剣士』のくだりは涙なくして読めないのだが、おそらく著者には「中国なら低コストで作れるかも」という思いが強かった筈だ。結局、日本で作るよりカネがかかるどころか完成しなかったのだが。

    この本、Twitterにて話題になっているのだが、円谷プロの人間が書いたにしては誤りも多い。

    たとえば、スペシウム光線などの軌跡は「光学合成で、フィルムにピンで傷をつけるレトロな手法で表現していました」などと書いてあるのだが、光学合成とシネカリは違う(ただ、当時は合成の当たりをつけるためにフィルムを鉄筆でけがくことがあったらしい)。父 一が演出したドラマ『煙の王様』について「TBSにもフィルムは残っていないようです」なんて書いてあるが、CSのTBSチャンネルで何度か放送されていたりする。金城哲夫が沖縄に戻った真相を語りつつ、「かねしろてつお」なんてルビをふっていたり(キングジョーの名前の由来になったのは有名な話)する。

    「金城哲夫 西へ! [DVD] 」 金城哲夫(出演) 『amazon』

    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00092QT6I/

    パワード怪獣のデザインを「現地デザイナーが米国人受けするように勝手にリメイクした」なんて書いているが、デザイナーは今をときめく樋口真嗣や前田真宏、特撮研究所の三池敏夫だったりする。しかも、どれもWikipediaに載っているレベルの情報で、著者か編集にやる気さえあれば校正できる間違いばかりだ。

    「ウルトラ怪獣シリーズ29 パワードバルタン星人」 『amazon』

    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000R4NC8Q/

    でも、著者の円谷英明が、円谷英二の孫にも関わらず全く制作現場にタッチせず、経営畑ばかり歩いてきた人間と考えれば、こういった間違いをしてしまうのはよく分かるんだよね。どんな業種でもいい、たとえば貴方が中小企業に勤めているとして、その会社の社長が過去のカタログに載っていた商品の製造方法の詳細や現在の在庫を把握しているだろうか。そんなことはないだろう。

    更に、著者が「視聴者の共感を得られなかった」と書いている『80』も『グリッドマン』も、当時現役視聴者の一員だった自分は結構好きだったりするんだよね(『ネクサス』はその通りだと思うけど)。「偉大なるマンネリではいけなかったのか」なんて書いてるけど、マンネリを回避したからこそ『ウルトラQ』の後に『ウルトラマン』が生まれ、『ウルトラマン』の後に『ウルトラセブン』が生まれたのではかろうか。ティガの出自が光の国ではなく地球になったのも、主人公のドラマを描かなくてはならない現代ヒーローものとしては真っ当な手法だと思うぞ。

    結局、著者は憎悪している叔父と同じく。ウルトラマンの作り手というよりも、管理者なのだ(その意味で、「皐ではなく粲が社長を務めるべきだった」という知り合いの言葉は正しい)。

    その一方で、『ウルトラマンフェスティバル』のくだりや、一番最後に書かれた「ヒーロー配達便」のエピソードは胸にしみる、糊口を凌ぐために作った『ウルトラファイト』が『帰マン』に繋がったり、アニメがブームということで作った『ザ・ウルトラマン』が『80』に繋がったのは、皆が『ウルトラマン』というキャラクターを愛しているからだろう。そういえば、昨年のエイプリルフールに話題になったブログは円谷一の孫が書いたものだった。

    「4月1日にふと話したくなった、とりとめのない話。」 2012年04月01日 『やまいきたいですよぼくは。』

    http://blog.zagi.jp/?p=213

    三人兄弟のうち、誰の息子なのだろうかなんて邪推してしまう。

    ここでどうしても痛感してしまうのは、なんだかんだ言われながらも東映は優秀なんだなーという事実だ。スーパー戦隊は三十余年、平成ライダーは十数年途切れなく放送し続けている。どう考えても『ウルトラマンサーガ』よりカネも時間もかけていない『MOVIE大戦』に客が入ってしまう。『パワーレンジャー』もそれなりに成功してしまうし、『仮面ライダー ドラゴンナイト』が成功しなくても、日本で元の俳優に吹き替えさせたDVDを発売すればそれなりに資金回収できてしまう。田崎竜太や坂本浩一といったスタッフ育成にも最適だ。ネットでは評判の悪い白倉伸一郎が、一族の一員というだけで経営やプロデュース業をやっている円谷皐や一夫、著者である英明と比べても、名プロデューサーのように思えてくる。

    一介の中小企業である円谷と三大映画会社の一つである東映じゃ規模が違うから仕方が無い面もあるのだが、近年盛んにやっている『VSシリーズ』や『MOVIE大戦』なんて、テレビ放送が終了してもできるだけ玩具販売を落とさない手法の一つなんだろうなぁ。

    そして、本書では批判されていた「玩具優先主義」も、きちんとドラマの盛り上がりと相関した新玩具なら、視聴者は全然嫌じゃないどころかむしろウェルカムなんだよね。近年のライダーベルトやレンジャーキーが売れまくっているのはそこに理由があるだろう。自分も、あんなに興味が無かったオーメダルが、最終回にタカメダルが割れただけでどうしても欲しくなってしまったり、あんなにどうでも良かった白い魔法使いベルトが、今朝の放送で中山絵梨奈が着けただけで欲しくなってしまったぞ。

    「仮面ライダーウィザード 変身ベルト DX白い魔法使いドライバー」 『amazon』

    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00CL4DT06/

    そんなわけで、ウルトラマンじゃなくておれが泣けてくる本であった。

    果たして経営母体が変わって以降に製作された『大怪獣バトル』や『ウルトラゼロファイト』は円谷の黒字経営に貢献するのだろうか。来月放送される『ウルトラマンギンガ』は円谷復活の契機になるのだろうか。願わくば、どんなに関連商品を出しても良いし、どんなに商業的であっても構わないので、ただただ面白い映像作品であって欲しい。

    「ウルトラマンギンガ 光の超戦士シリーズ ウルトラマンギンガ」 『amazon』

    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00D5JP1FC/

    執筆: この記事はmacgyerさんのブログ『冒険野郎マクガイヤー』からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2013年06月28日時点のものです。

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