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派遣3年ルール見直しの前にいっぺんくらい過去の政策を総括すれば?
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派遣3年ルール見直しの前にいっぺんくらい過去の政策を総括すれば?

2013-08-22 14:30
    派遣3年ルール見直しの前にいっぺんくらい過去の政策を総括すれば?

    今回は城繁幸さんのブログ『Joe's Labo』からご寄稿いただきました。

    ■派遣3年ルール見直しの前にいっぺんくらい過去の政策を総括すれば?
    派遣労働者の派遣期間の3年という上限が撤廃される方向で見直されるらしい。
    メディアでは割とあっさり流されている感があるが、実はこの改正案は、過去10年ほどの派遣労働をめぐる議論の一つの終着点だというのが筆者の意見だ。
    非常に重要な点なので簡単にまとめておこう。

    現在、派遣労働者はその職場で3年経過すると直接雇用の申し出をしないといけないという3年ルールがある。Aさんを3年間派遣として受け入れ続けた場合はもちろん、途中でBさんに切り替えても、同じ業務でトータル3年間が経過した場合、やはりBさんに直接雇用を申し入れないといけない。

    要するに同じ仕事で3年以上継続して派遣労働者を使ってはいけないというルールだ。

    「日本は終身雇用が原則であり、派遣労働がそれに代替するようなことがあってはならない」との厚労省の強い意志がみなぎっているのがわかる。

    とはいえ、少なくとも04年時の改正後には、3年経過直前に工場のラインを変えたり3カ月のクーリング期間だけパート契約を結んだりといった“抜け道”がいくつもあったのは事実で、逆に言えばだからこそ企業は、請負から派遣に大々的にシフトしたという経緯がある。

    ところが、後から厚労省が通達*1により抜け道をふさぎ始めたことで、状況は大きく変わった。

    *1:「いわゆる「2009年問題」への対応について」 『厚生労働省』
    http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0926-6.html

    ラインを切り替えたり近くの部署に移したりするのはもちろん、3カ月だけ直接雇用にするのもアウトで、事実上、企業は直接雇用の申し出を行う以外になくなってしまったのだ。(直接雇用すればいいじゃないかという人もいるが、直接雇用してしまうと今度は“5年ルール”など別の縛りを受けることになり、本来はそういったしがらみを避けるために派遣雇用にしたのに本末転倒だろう。)

    このシフトが起こったのは偽装請負が問題化した06年以降で、3年経過する09年には、日本中で派遣社員に直接雇用の申し入れをするか、そこで雇い止めしなければならなくなる企業が続出するはずだった。業務がある以上はクビにしたくはないし、かといって直接雇用は固定費化するのでなんとか回避したい。

    という企業側のジレンマが、いわゆる2009年問題である。

    ついでに言うと、雇い止めするにしても、大企業なら「脱法行為だ」とかなんとか言われてプロ左翼から攻撃材料にされることは確実だったので、そうとうナイーブになっていた企業が多かった記憶がある。

    実はこれこそ09年の派遣切りのもう一つの側面で、追い込まれた企業が「リーマンショックでどたばたしてるうちに雇い止めしておけば文句を言われないだろう」とやってしまったケースが、特に大手には相当数含まれていると思われる。

    筆者の知り合いの人事担当者の中には、08年当時は「09年問題どうしましょうかねえ」とぐちっていたものの、リーマンショック後には「ああ、あれ全部解決しちゃいました」と晴れ晴れとした顔で語っていた人がいたのをよく覚えている。

    共産党などは派遣切りに際してせっせと政府と企業を批判していたが、筆者に言わせれば、抜け道塞ぎを積極的に後押しした彼ら共産党*2の方がどちらかというと責任は重大で、自分でガソリンぶっかけといて全焼したら家主と建築業者を批判するようなマッチポンプぶりに呆れた記憶がある。

    *2:「派遣使い回し クーリング トヨタ車体中止」 2008年11月09日 『しんぶん赤旗』
    http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-11-09/2008110901_01_0.html

    さて、あれから4年の月日がたった。今回話題となっている改正プランは「仕事ごとに上限3年ルール」から「個人で上限3年ルール」への転換だ。

    3年経過する前にAさんからBさんに入れ替えさえすれば、企業はずっと派遣労働者を受け入れることが可能となるから、ほぼ全面的な規制緩和と言っていい。

    上記の通達と比べ、厚労省が大きく路線転換したのがよく分かる。

    彼らが規制緩和にかじを切った理由は、先日発表された平成24年就業構造基本調査を見れば明らかだ。5年前の2007年と比較すると、派遣労働者は42万人減る一方でパート・アルバイトが100万人増え、正社員はそれ以上の120万人も減少している。

    派遣をいくら締めあげてもパートやアルバイトが増えるだけで、もはや正規から非正規への流れは止められないのだ。

    これが、厚労省自身が管轄する研究会から、今回の規制緩和プランが出てきた経緯だろう。

    同研究会のコメント*3はなかなか正直に白旗を上げているので、以下に引用しておこう。

    *3:「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会(平成24年10月~)」 『厚生労働省』
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ajmk.html

    制度創設時、常用代替を防止する趣旨は「新規学卒者を常用雇用として雇い入れ、企業内でキャリア形成を図りつつ、昇進、昇格させるという我が国の雇用慣行との調和を図る必要」、すなわち正規雇用労働者の雇用を基本とする日本型雇用慣行を維持することにあった。しかし、近年、パートや契約社員を中心に非正規雇用労働者は増加を続けており、それにも関わらず派遣労働者のみを常用代替防止の対象とし続けることには十分な整合性はないと考えられる。

    というわけで、一周回って元のスタート位置に戻ってきたわけだが、厚労省なり政府なり(それから最近調子づいてる共産党も)ここ数年の規制路線を振り返り「申し訳ありません、規制で正社員は増やせませんでした」と総括くらいしてはどうか。

    でないと、また

    「やっぱり規制緩和が悪い」とかなんとか言って商売する連中*4が湧く

    →弱者大好き大手メディアが食いついて盛り上げる

    →数年たってみればなんにも状況変わらず、当事者が老けこんでるだけ

    *4:「福島みずほ@mizuhofukushima」 2013年08月06日 『twitter』
    https://twitter.com/mizuhofukushima/status/364930453368614914

    という不毛なサイクルが繰り返されることだろう。

    失った時間は永遠に取り戻せないのだ。

    執筆: この記事は城繁幸さんのブログ『Joe's Labo』からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2013年08月20日時点のものです。

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