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甲斐良治:小さな農家、小さなむらを見くびるな!
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甲斐良治:小さな農家、小さなむらを見くびるな!

2009-08-27 12:15
    今日の自民党の凋落が始まった2007年7月の参議院選挙の際、とくに農村部で争点となったのが同年4月から実施された農水省の「品目横断的経営安定対策」であった。名称こそ「経営安定対策」とはなっているが、農水省自身がその説明パンフレットの表紙に「これまでのような全ての農業者の方を一律的に対象として、個々の品目ごとに講じてきた施策を見直し、19年度からは、意欲と能力のある担い手に対象を限定し」とあるように、都府県では4ヘクタール以上、 北海道では10ヘクタール以上の面積を耕作する"担い手"か、経理を一元化するなどの条件を満たす20ヘクタール以上の"集落営農"しか政策支援の対象に はしないというものだった。

     これがどれほど現実からかけ離れたものであるか――たとえばこれまで数回にわたり紹介してきた「鳴子の米プロジェクト」(NHKドラマ『お米のなみだ』 のモデルにもなった)の宮城県大崎市旧鳴子町では、620戸の農家のうち、条件を満たすのはわずか5戸で、「このままでは鳴子は草ぼうぼうの耕作放棄地だらけになってしまう」と危機感を抱いた旅館主やおかみさんたちが立ち上がり、寒冷な中山間地にも向く「東北181号」(後に「ゆきむすび」と命名)を探し 出し、60㎏2万4000円でこれを買い、農家には1万8000円を保証するプロジェクトを始動したのである(差額6000円はNPOとなったプロジェクトの運営費、後継者の育成など、地域の農業を地域で支えるための、いわば「自主農政」の財源に充てる)。

     07年参院選の際は、民主党がこの「品目横断」を「小規模農家の切り捨て」と批判し、29の1人区で自民党6勝23敗という惨敗につながった。
     それに懲りたのだろう、今回の自民党マニフェストには、「農地面積や年齢などに関係なく、意欲ある農家の経営を最大限にサポートし、所得の増大へ」とある。だが、すぐその後に「生産性の向上を目指し、『平成の農地改革』を断行します」とあり、企業の農業参入などによる規模拡大=「『農業構造改革による零細農業からの脱却』という幻想」(山下惣一氏)にいまだ囚われているように見える。
    とはいえ、民主党のマニフェストも、「小規模経営の農家を含めて農業の継続を可能とし、農村環境を維持する」とし、そのための具体策として戸別所得補償制 度を実施するとしているものの、アメリカとのFTA締結をめぐる修正・加筆問題に見られたように、本当に「小さな農家」をまもる立場かどうか、相当アヤシイと筆者は思っている。政権誕生後の政策次第では、来年の参院選は07年参院選の自民党と立場が逆転しかねないとさえ思う(そのとき自民党がこの世に存在していればだが)。

     いずれにしても、農業は家族とむらの営みであり、暮らしの営みである。家族経営や村落共同体をまるで時代遅れのもののように言うむきも多いが、いま問われているのはたしかに短期的には「民主党か自民党か」かもしれないが、長期的には国民国家、市民社会、資本主義の「近代3点セット」の究極の制度疲 労をどう打破するかであり、近代百年をどう卒業するかだと思っている。そのとき大きなヒントをもたらしてくれるのが家族の営みとしての農業、その集まりとしての「むら」(地域)だ。それも農業に限ったことではない。

     
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