19日のこのコーナーに書いた「社会保険の食生活連動制」――「自治体ごとに、連動 用の予算枠を設け、食生活のよい家庭の保険料の全部ないし一部を肩代わりする」「(食生活は)インターネットやデジタル・カメラで記録、虚偽をしないよ う、抜き打ち的な監視を行政が担当し、通常の記録は消費者に負担させる」――について、小さな勉強会で話題にしたら、メンバーの一人が「それに類すること で、すでに現実化しているものがある」と言うので驚いた。

それはいわば「健康保険のメタボ連動制」。「生活習慣病予防の徹底」の達成のためとして、来年(平成20年度)4月より厚生労働省が40歳~74歳までの年齢層への特定健診・特定保健指導を医療保険者(企業)に義務付けた(4月25日決定)。

特定健診とは、企業などの定期健診に、生活習慣病を招く「メタボリックシンドローム」(内臓脂肪症候群)の診断基準となる腹囲(へそ回り)測定を追加すること。
 そして「要注意」のウエストサイズ(男性:85センチ、女性:90センチ以上)、
 かつ①中性脂肪またはHDLコレステロール②最大血圧または最小血圧③空腹時血糖値のうち2つがが一定値以上であれば「メタボリックシンドローム」とする。

そして標準化されたプログラムに基づき全医療保険者の責任で行なう特定保健指導を行なう。ただし、この指導は保険者が健診・事後指導の実施について アウトソーシングすることができ、経団連は「積極的にアウトソースを選択し、病院、診療所や民間企業等が蓄積してきた技術・知識を活用することは、保険者 が自ら事業を行なう場合と比べてより効果的・効率的な事業実施が見込める等、大きなメリットがある」などと歓迎している。特定健診・特定保健指導がビジネ スチャンスになるととらえているのだ(経団連は平成17年9月、すでにオムロン、花王、味の素、三菱電機などからなる「ヘルスケア産業部会」を設置してい る)。さらに平成25年度からの実施をめどに、保険者別に健診達成率、メタボ改善率で後期高齢者医療費の支援拠出金が、加算・減算される。

まさに「アウトソーシングされた身体の国家管理」である。
それと同様、神門氏の「食の国家管理」が民間にアウトソーシングされ「特定食育指導プログラム」によって行なわれる日はすぐそこまで来ているのかもしれない。

鍼灸ジャーナリストの松田博公氏は「真の医療とは常に、人間の自ら癒す能力を不能化し、誇りを失わせ、消費者として医療産業に従属させる文化に対抗 し、自ら癒し、生活を律し、暮らしを立て直す文化闘争であったはずである。現代医療の病院システムの崩壊に直面しているわたしたちは、その制度的弥縫策へ の虚しい期待にとどまることはできない」と指摘している(「江戸養生文化の奥深い世界――日本の医療はどこから再出発すべきか」週刊読書人07年1月26 日号)。

消費者ではなく当事者としての「わたしたちレベル」での食文化闘争、医療文化闘争がなければ、食も、身体も、国家と企業の思うがまま「利益の源泉」にされてしまう。