本物の独裁者は、本当に自分1人で何でも発案し決裁する天才肌の戦略家でなければ務まらず、ヒトラーはたぶんそうだったし、今ならプーチン露大統領がそうだろう。今も昔もむしろ多いのは、それほど有能ではなくて、裏に策略家や振り付け師がいて、その言うがままに表舞台で振る舞うことが上手なだけの「暗愚の帝王」タイプの疑似独裁者で、これは怪僧ラスプーチンに宮廷を牛耳られたロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ2世以来、米CIAの傀儡だったイランのパーレビ国王やチリのピノチェト大統領、ネオコン一派に政権中枢を乗っ取られて無駄な戦争に突っ込んだブッシュ・ジュニア米大統領、飯島勲秘書官が取り仕切っていた小泉純一郎内閣など、枚挙に暇がない。

今それで国民から糾弾され議会による弾劾に直面しているのが、新興宗教の教祖の娘とかいう親友の言いなりになっていた韓国の朴槿恵大統領であるけれども、我が安倍晋三首相の「一強多弱」というのもこの疑似タイプに近い。今週の『週刊ポスト』は「安倍政権を影[陰の誤植?]で操る『今井家』の謎」という記事を掲げているが、これは「謎」でも何でもなく、少なくとも永田町では周知の事実であって、大手マスコミがこれまで書き立てるのを遠慮してきただけである。

今井尚哉=総理首席秘書官は、第1次安倍内閣の時に経産省派遣の総理秘書官となって安倍と親しくなり、第2次安倍政権で首席秘書官に引き立てられた。アベノミクスそのもの、その失敗を糊塗するための消費再増税延期や、それを合理化するために伊勢志摩サミットを利用して偽データで国際社会と国民を騙そうとした策謀、「一億総活躍」という無意味な新目標の策定、原発再稼働、武器輸出、中国包囲網外交など、何から何まで今井プラン。天皇の「生前退位」に関する有識者会議の座長に、叔父の今井敬=元経団連会長を据えて、一時的な「特別立法」でお茶を濁そうとしているのも今井だ。

12月にプーチンを来日させて山口県の温泉で会談させ、日ソ共同宣言から60周年に当たる今年に北方領土問題解決の道筋をつけ、それをバネに年明け解散・総選挙という政権延命戦略を描いたのも彼で、その発想のベースには「ロシアはいま経済的に苦しいから経済協力を前面に出せば妥協してくるだろう」という外交ド素人の甘い判断がある。これでは本物の独裁者=プーチンと丁々発止戦うことは難しく、安倍は大恥をかくことになりかねない。疑似はしょせん疑似でしかないのである。▲(日刊ゲンダイ11月10日付から転載)


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944 年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレ ター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェ ブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にイ ンターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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