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 2000年に始まった介護保険制度、その5年程前から福祉分野の旅行が忙しくなった。福祉先進国と言われた欧米諸国への視察が数多く企画され、私はエスコートとして、行政や医療、福祉分野の方と一緒に事例を求めて旅をしていた。

 当時は設備や器具などのハード、人材研修などのソフト、本人の暮らし方を助けるサービスデザインの考え方など、いくつかの点で大きな違いがあった。私は素人だったが、こうした違いを生む理由に障がいを持つ人や高齢者自身の意識の差があると感じた。正確に言えば、当事者の生きる力を引き出そうとする環境の差が大きいと思った。

 同行した日本の専門家は訪問先に暮らす方に対して、自国のどこがいいのか、施設に求めることは何かと少し意地悪な質問したが、みな明快な答を返してくれた。自分のしたいことははっきりと伝え、どうしたらできるかを施設の方と考え、あきらめずにそのプロセスを楽しむ。買い物や外食にでることも気兼ねなく、旅も盛んに行われ家族をサポートする仕組みがあった。地域の方との交流もオープンで新鮮な出会いも仕掛けられていた。不安がある高齢期の人生も楽しもうという前向きな生き方に感動したのを覚えている。老いた時の生き方が違う、介護が必要になっても皆毅然として胸を張って暮らしていた。周囲で働く人も同じで、ひと言でいえば皆、自立していた。

 日本はこれまで家族が家族を支える社会を守ってきた。しかし、高齢者が増えるにつれ、介護は社会化され地域でみる制度が生まれた。核家族化が進んでいたのもその原因にある。戦争の我慢を知る高齢者は未だに多くを望まずにいる方が多い。

 介護保険と同じ年に始まった交通バリアフリーは、都市の暮らしを格段に便利にしている。そうした進歩を知れば、もっと多くの人が自由に旅を楽しむ国になると思う。

平成27年3月号(平成27年2月15日発行)


【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。