姑は要介護度4で、認知症がすすんだ今は自宅近くのサービス付高齢者住宅に住んでいる。
相談なら電話とメールだけでもできると伝えてみたが、身体の不自由な母のこと、介護になって諦めていたはずの家族旅行だからと息子夫妻が遠路はるばる来てくれた。会って話すうちに、もしかするとこれが最後の旅になるかもしれないと、みな覚悟していることを知らされた。
姑はとても活発で、以前から大の旅行好きという。80歳を越えてからも、友人と海外へでかけていた。元気高齢者の手本のような人生を歩んできた。
ところが数年前に内臓疾患が見つかり、その手術の為に2週間ほど入院した時から様子がおかしくなった。病院で長時間ベッドに寝かせられていた為に、臀部には大きな褥瘡が二つもできてしまい、身体を動かすことさえままならなくなったという。さらに以前から怪しくなっていた認知症状は一機にすすんでしまった。
医師の治療を受ける間に短期間で介護度が重くなる話をたびたび聞く。本人の混乱はもちろんだが、突然のことに家族のショックは大きく、その頃から夫婦の生活もかなり変わってしまったらしい。
自宅介護も考えてみたが、当時は認知症の混乱もあって、嫁の負担を考えると仕方なく近所の施設にお願いすることにした。
運よく近所に評判のいい施設が見つかり、手厚いケアと毎日通う熱心な嫁の努力もあって、主治医からは今なら旅行に連れて行ってもよいのでは、と許可がでた。
褥瘡も完治はしておらず、尿カテーテルを使用していることから、この家族の旅には看護資格をもつトラベルヘルパーに担当してもらった。
介護旅行は金持ちだけしかできないと考える人もいるが、実際は家族など周囲に熱心な方がいるかどうかで決まっている。
【篠塚恭一しのづか・きょういち プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年株SPI設立代表取締役観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー外出支援専門員協会設立理事長。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。