2020年に開催されるオリンピック、パラリンピック誘致が話題になっている。
再び東京開催が決まれば、インバウンドを中心に観光産業は活気づくだろう。前回の1964年、日本は高度成長期にあった。開催に合わせて新幹線や高速道路網などインフラがつくられ敗戦後の復興の証を世界に示したことで多くの日本人が自信と誇りを得たという。
今回のエントリーは、原発事故で電力不足が懸念されているというが、財政危機で経済的に厳しいマドリッドや隣国の政治不安が懸念されるイスタンブールとの勝負は五分五分。今度は東日本大震災後の観光復興の証を再び世界に示してほしいと思う。
それから半世紀がたち、日本は先進国一の超高齢者社会を迎えた。
高度成長期を支えた団塊世代が仲間入りしたことで高齢者人口が急拡大し、それが世界の注目を集めている。
高齢化社会とは、全人口に占める65歳以上の割合が7%を越え14%になる迄をいい、さらに21%になるまでを高齢社会という。日本はすでに23%を越えているので「超」高齢者社会となる。医療、介護、年金など社会保障制度の見直しなど財源難から高齢社会は様々な問題が生むものとされている。
他にも「高齢」が明るく聞こえないのは、定年で社会との接点が失われてゆくことや、加齢とともに体力が衰え、病気になるという印象があるのだろう。死に近づいてゆく年代というのも悲観的に映るのかもしれない。
しかし、既に決まっている未来のマイナス面ばかりに意識を集めることは建設的でない。高齢者社会は、本来豊かな国の証であり、よい面もたくさんある。
国民が長寿世界一の日本は、企業数でも世界一の長寿国家にある。
旅行業トップのJTBグループは、明治時代の終わりに国鉄や満鉄、日本郵船、帝国ホテルなどの出資を得て創業され、昨年100周年を迎えたが、その歴史、経営の継続性は大きな信頼を育んできた。
さらに旅館業には1000年以上も続く老舗がある。
西山温泉「慶雲館」は創業705年、城崎温泉「古まん」は717年、粟津温泉「善吾楼」は718年と、1300年も暖簾が続いているというからその持続力に驚かされる。
こうした老舗には、企業なら社是、家業なら家訓が創業の精神とともに受け継がれていて、他への感謝や弛まぬ先進思想は共通している。
時代とともにしなやかに変化を遂げ、常に持続の可能性を見出していく力があるのだろう。
日本は世界でも抜きんでて老舗が多い特異な国とされるが、みれば和菓子は茶道文化と通じ、旅館は神社や寺と共生するなど、異業種との連携を図ることで継続力を保っている。決して独り勝ちはない。
トラベルヘルパーは、身体が不自由な人の外出や旅の普及に取り組んでいるが、介護旅行は、介護と観光という異業種のコラボレーションで成り立っている。
ただ、目の前にいる客の困りごとを解決しようということ、今まで一緒に旅をして楽しんだ人が年をとっても、旅行業にいる我々と旅を楽しん欲しいという思いから始まった連携だった。
これから30年、ユニバーサルツーリズムは、障がいを持つ人と介護が必要な高齢者を併せれば1200万人とその家族が対象となる市場に成長する。
その一部である介護旅行は、大きな利益は生まないが、企業価値を高めることはできる。生きがいや働き甲斐、プロフィットからバリューを模索している人にはすすめられる仕事だと思う。
旅行業は個人旅行から修学旅行、産業視察など、すそ野が広い。超高齢者社会の到来は、観光産業にとって大きなビジネスチャンスになると私は捉えている。
オリンピック誘致も同時開催されるパラリンピックによって東京の観光バリアフリー化が期待できる。それは超高齢者社会の新たなサービスインフラになると思うから応援する。
観光産業を目指す若者が未来に希望を抱き、地域に雇用を生むことで観光地を守る人の自信と誇りにつながれば嬉しい。(週刊トラベルジャーナル連載)
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
コメント
コメントを書く本記事に啓発され、観光庁の「ユニーバーサルツーリズムデザイン化」を、さらっと目を通しました。
これからの観光業が力を入れなければならないのは、①高齢者,②障害者、③海外からの旅行者の積極的受け入れであり、そのためには、旅行者,旅行業者、地域観光先の3者を結びつける協力体制の整備が必要と理解しました。
ハード的には、バリアフリーを主体とした旅行者受け入れ設備の充実であり、ソフト的には、ホスピタリティーとか介助技術のレベルアップが課題となるのでしょうか。
これらの充実が図られても、旅行者の懐具合に見合った費用の支援体制も欠かせないのではないか。海外の旅行者は円安になって想像以上に増えているようです。介護保険適用高齢者の交通費支援が得られなくとも、預金の金利が1とか2%になれば、介護不要の高齢者の旅行も飛躍的に増えると思うのです。内需として、観光庁を設置し観光業を重視するのであれば、国民の利用しやすい国民目線の政策を政治家に求めたいと思います。