2月10日に日本記者クラブの主催で、アンジェレラ在日米軍司令官への共同電話インタビューが行われた。日米中関係については3つの質問が出され、中国の防空識別圏については司令官は「現状を力で変えようとするのは認められない」としつつも「中国は脅威をもたらす国ではなく、我々と地域の安全を共有し、責任の一端を担うことが可能だ。日中が胸襟を開いて対話できる時が来るよう望む」と述べた。
日中がもし軍事衝突したら米軍はどうする?という問いには、司令官は「衝突が発生することを望まない。仮に発生した場合、救助が我々の最重要の責任だ。米軍が直接介入したら危険なことになる。ゆえに我々は各国指導者に直ちに対話を行い、事態の拡大を阻止するよう求める」と答えた。
さらに中国軍が尖閣を占領した場合に米軍は阻止するか?と問われて、「そのような事態を発生させないことが重要だ。もしそういう事態が発生したら、まずは日米首脳による早期会談を促す。次に自衛隊の能力を信ずる」と言った。
メッセージはきわめて明瞭で、中国は脅威ではない、日中が軍事衝突を起こさないよう対話を期待する、もし起きても米軍の直接介入は危険である、だから尖閣で紛争となっても自衛隊が当たれば十分だ、ということである。在日米軍の最高責任者がこのような落ち着いた状況認識を持っているということは、その微妙なニュアンスまで含めて、各紙が一面トップで報じてよさそうなものだが、どこも採り上げなかった。そのことに中国人記者は憤慨しているのである。
安倍政権は、日米が手を組んで中国包囲網を作り上げ、尖閣などでイザということがあれば集団的自衛権を発動して日米が共に中国と戦える態勢を作ることに躍起となっている。マスコミも翼賛体制をとって安倍の剣呑な路線を基本的に支持しているから、在日米軍司令官が「尖閣が攻められたら米軍も一緒に戦う」と言ってくれれば一面トップで記事にするだろうが、「米軍は介入しない」というのでは「な〜んだ、面白くないな」と記事にしないのだ。嘘を書くよりも本当のことを書かないほうがよほど罪深い。在日米軍トップのこういう発言が報じられないことで、多くの国民は、安倍政権と米政府の間にどれほど深い亀裂が生じつつあるかを知る機会を、また一つ、失ったのである。▲(日刊ゲンダイ2月19日付から転載)
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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
コメント
コメントを書く米中は世界の軍事大国であり経済大国である。両国内で抱える問題は、人権とか貧民とかいっても、根っこは同じことである。少数の人間が富を独占し、多くの経済的困窮者が溢れています。少なくとも経済に対する物の考え方に大きな違いはないのです。日米より米中のほうが相互理解は進んでいると見るべきなのでしょう。国民の親密認識も進んでいるようだ。
一方、日本の立場は複雑です。経済大国としての立場がどんどん薄れ、軍事力は安全保障上ではお飾りの域を出ない自衛力に過ぎない。日本の影響力が減っていく情況は、国の大きさから見て当たり前のことなのですが、一部国粋主義者は我慢がならないのでしょう。それが、ナショナリズムを煽って自衛隊の力を強化しようとする集団的自衛権に他ならないのでしょう。
米中にとって、お話のように日本の行動は子供じみた行動にしか見えないのでしょう。最近は中国は、尖閣問題棚上げから、外交と経済交流を分離して考えるようになっているように見えます。トップの器のスケールが違いすぎます。