公明党はそれなりに抵抗したとは思うが、集団的自衛権解禁を何が何でも閣議決定に持ち込もうとする安倍政権の暴走を食い止めることはできそうにない。どうして連立離脱覚悟で頑張れなかったのかともどかしい限りだが、それよりもこの事態を許したA級戦犯として糾弾されるべきは、痩せても枯れても野党第一党の民主党である。

海江田万里代表は20日過ぎになってからようやく腰を上げて「集団的自衛権の行使は今の時点では不要」という線で党内を取りまとめるよう、党安保総合調査会会長の北沢俊美=元防衛庁長官に指示したという。今さら何を言ってるんだ。それならそれで最初から党論をまとめてガンガン論争を仕掛けて公明党を援護すればよかったじゃないか。もう負けが決まりかけているところでこんなことをしても、将棋などでいう「負けの形作り」でしかない。

どういうことなのかと民主党内に探りを入れると、「海江田は、前原誠司=前代表の“海江田下ろし”の動きを恐れて身動きができないでいた。前原の仕掛けが不発に終わったので、今頃になって取りまとめを指示したんでしょう」と某ベテラン議員が言う。前原は、集団的自衛権容認では自民党右派と同じ。その議論が熱してきたタイミングを捉えて仲間と共に「国家安全保障基本法」の独自案を提出する構えを見せたり、テレビで「維新や結いとの合流の可能性は将来的に100%」と離党の覚悟をちらつかせたりする一方、代表選の立候補に必要な推薦人の数を「20人以上」から「10人以上」に引き下げるという事実上の「代表選前倒し=海江田下ろし」の署名運動にも取り組んで、執行部への揺さぶりに打って出た。

「しかし、署名は全議員の2割程度しか集まらない。当たり前で、党運営のカギを握る参議院は今の時点で海江田を下ろすつもりはないし、地方は、何にしても党内がゴタゴタするのだけは止めてくれというのが大勢だから、ここで勝負して突っ走っても、前原はせいぜい4〜5人で出て行くしかなくなるでしょう。そこを見極めて海江田が動いたのだが、どちらの行動も安倍政権には痛くも痒くもないし、従って国民の関心も呼ばない」(同議員)。

では海江田の首を掻くのは誰なのか。「来春の統一地方選で負けて海江田が辞任して、その時に参院勢力は細野剛志あたりを担ぐんじゃないか」。それもあまり国民の関心を呼びそうにない。▲
( 日刊ゲンダイ6月25日付から転載)


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。