民主党の海江田万里代表が集団的自衛権をめぐって、二転三転“言葉の遊び”を繰り返している。そもそも同党は今年3月には「行使一般は容認しない」との意味不明の見解をまとめた。「一般」というのはどうも「全面的な解禁」のことらしいが、そうだとすると「特殊」なケースは部分的に容認すると言っているのと同じで、それならそれで具体的にどういう特殊ケースなら容認するつもりなのかを明示してくれないと議論のしようがないという声が党内外からあがった。しかし海江田はそれに応えないまま6月の党首討論を迎え、案の定、閣議決定でやるのは邪道で堂々と改憲を提起すべきだという形式論だけで攻めて中身には踏み込まず、盛り上がりを欠いた。

それで代表選前倒し騒動が一応収まった8月5日の常任幹事会で「現時点では必要ない」という新見解を出し「これは私の考えであり党の考えだ」と胸を張った。マスコミでは「続投が確定したこともあり、安倍政権への反転攻勢を狙って一歩踏み込んだ」といった評価が流れたが、そうだろうか。「現時点では」必要ないということは「別の時点では」必要になるかもしれないと言っているのと同じで、やはりどういう時点では認めるつもりなのかを説明してくれないと検討のしようがない。党内の行使反対派からも賛成派からもそういう批判が出たため、急遽11日、大畠章弘幹事長、安保調査会長の北澤俊美元防衛庁長官、憲法調査会長の枝野幸男元官房長官らが額を集めて協議し、「現時点」という言葉を外して、「安倍政権が進める集団的自衛権の行使は必要ない」との表現で調整をはかることにしたという。これでもやっぱり同じことで、「安倍政権が進める」それはダメだけれども、将来の「海江田政権なり細野政権なりが進める」それなら必要と読めるではないか。

「何をドタバタしているのかと言えば、要するに海江田は、自分の考えは何もなくて、自公両党の『あくまで限定的な』行使容認論に同調している前原誠司や長島昭久など賛成派と、大勢を占める旧社民系、労組系の反対派とを何とかまとめるために、反対するフリをしながらも言葉をひねって部分的容認の余地を残そうと苦心惨憺しているのだ」と同党の反対派のベテラン議員が解説する。「海江田が腹を決めて、断固反対の立場をパーンと打ちだして、賛成派の連中を叩き出せばいいんだ。遅いように見えてそれが党再建の一番の早道」と言うが、軟弱な海江田にそんな荒事はできそうにない。▲
(日刊ゲンダイ8月13日付から転載)


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。