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篠塚恭一:福祉有償運送は市民の手による移動サービス ── 街へ出よう!(15)
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篠塚恭一:福祉有償運送は市民の手による移動サービス ── 街へ出よう!(15)

2015-03-02 12:06
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    1991年に始まったバリアフリー旅行の研究会、「もっと優しい旅への勉強会」は、観光だけでなく医療、福祉に携わっている有志が集まり、家族や当事者と意見を交わしてきました。集会は、ゲストや参加者の都合もあってほとんど平日の夜に開催され、発足から暫くは当時JTBの本社があった丸の内の一室を借りて、月一回のペースで行われていました。講師は医師やパイロット、福祉機器の開発者などの専門家も協力しており、今でも様々な立場から貴重な意見の発表を続けています。

    私の密かな楽しみは勉強会後に打ち上げと称して講師やメンバーと一杯やること。ほんの一時間程度のことですが、みな違う世界の人と語らうことへ興味は尽きず、時間が経つことも忘れて過ごしました。

    会の運営はボランティアが行っていましたが、中に重い障がいを持つ方がいて、彼は帰りの時間をいつも気にしていました。迎えに地元の福祉送迎サービスを利用していたからです。トイレを済ませ他のメンバーより、少しだけ早くその場を去りました。見送りにでると、約束の場所に必ずいつもの福祉車両が迎えに来ています。ときどき、ドライバーが変わることもありましたが、皆似た印象の無口な方です。

    私が驚いたのは、この送迎サービスをボランティアが交代で行っているということでした。障がいを持つ彼が束の間の交友を楽しみ、そして安心して家に帰っていけるのも、こうした人の支えがあってのことでした。ボランティアで運営している我々の会が、さらにそれを支えてくれるボランティアの存在で成り立っていたのです。

    こうした送迎サービスは、ほとんど地元のボランティアが交代で行っており、自らサービス区域を定め、自家用車を使い、少額の実費を利用者からもらい利用できる会員制度として運営されています。ふだん日中は通院、通所の送迎をしている人達が多いので、土日や夜間のサービスは行わないという方が多く、こうして夜の遅い送迎をしてくれるのは稀なことでした。

    あの見送りの夜から四半世紀がたつ今、その間彼らは白タク行為と訴えられたり、身分が補償されず不安だったりと、運営には常に課題を抱えながら支援活動を続けてきました。どこも原資は乏しく利用に制限があり、経営が不安定でボランティアの事情でサービスが続けられないこともあり利用者が困るという話も耳にしました。

    介護保険制度が始まってからは、ヘルパーによる通院、通所時の送迎が、白タク行為と問題視されたことから、2004年に過疎地有償運送とともにガイドラインが定められ、市町村の運営協議会にはかることが義務付けされるなどの要件がまとめられました。

    さらに2006年、道路運送法が改正され、自家用有償旅客運送として福祉有償運送が位置づけられ一定の市民権を得るに至りましたが、資金難は今も変わらぬままです。一方で運営協議会など担い手も人材不足で、サービスの継続が危ぶまれる地域は少なくありません。

    市民の手で支えられてきた移動サービスが、地域包括ケアシステムとあわせた交通政策が実現されるなら、その地域毎の実情に沿った継続ができるように期待します。


    【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
    1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。



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