「日本のGDP における第一次産業の割合はどのぐらいだと思われますか」「1.5%を守るために,98.5%という大部分のものが犠牲になっているのではないか」(2010年10月19日「日本経済新聞社−CSIS共催シンポジウム」)

 前原元外相の発言に代表されるように、TPP推進論者はGDPを物差しに「農業 vs 輸出産業」の対立軸で語ってきた。だが、TPPによってGDPが増加するとの内閣府試算については、4ヶ月経った今でも疑問点が多い。

 今週発売の「週刊東洋経済」では、内閣府の試算を担当した川崎研一氏(野村証券金融経済研究所 主席研究員) がインタビューに応じ、

「私が算出した政府試算は、関税撤廃等の自由化を10年やった場合の累積だ。TPP参加、不参加で3兆〜4兆円差がつくとみているが、1年で3000億〜4000億程度、GDPなら0.1%相当にしかならない」

 と語っている。しかし、10月27日に内閣府が公表した「包括的経済連携に関する資料」には、「10年間の累積」ということはもちろん、試算の前提となる基礎情報についてはほとんど書かれていなかった。

 当時(10月末)のメディアを見てみると、「政府試算:TPP参加なら実質GDP2.4兆-3.2兆円増」(Bloomberg)「GDPを最大3.2兆円押し上げ TPPの経済効果公表」(テレビ朝日)と、「3.2兆円」がTPP推進の根拠として報じられ、またたくまにこの数字が一人歩きを始めた。各新聞社の社説が推進論を展開した時期とも重なる。

 TPP参加による影響の試算は各省庁から出され、すでに疑問点も指摘されている。追い打ちをかけるように、内閣府の試算が10年間の累積であることがわかったことで、賛成派の論拠が弱まることは必至だ。

 政府公表の資料に、欠落した情報が多数あることを問題視していた「TPPを慎重に考える会」会長の山田正彦前農水相は、1月に行われた本誌のインタビュー「TPPは農業だけの問題ではない! 」で、こう語っている。

「TPPに参加すればGDPが増えるという試算で、輸入がどれだけ増えるのか、国内の生産構造がどれだけ変わるのかなど、"国家機密"か知りませんが根拠を出せないようです」

 以来、山田氏は内閣府に試算方法などの基礎情報の公表を求めているが、いまだに回答はないという。

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