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ai-sugarさん のコメント

釣られたけど、やっぱこの人の書き方、スキー!

縦とか横とか関係なくちゃんと想像できる!

この人の書き方めっちゃ重い(気持ちじゃなくて、いろんなことをちゃんと表現しようとする)けど、それが好きだし本にすると重い(重量が)だけどこの感じなら全然ok!

復習がてら沢山読みたいです!!!!
No.32
140ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
一章 獣王の贄(にえ) 1  菊地良二は、月を見あげていた。  天にかかる歪(いび)つな月だ。  その月の横を、銀色に光る雲が動いている。  ずんぐりした、岩のような男だ。  十七歳――身長は中学生なみなのに、顔つきは、大人のように見えてしまう。  顔の肌が、岩か、蜜柑(みかん)の皮のようにざらついている。  眼が細かった。  蜜柑の皮に、ナイフで裂け目を入れたような眼であった。  唇が薄く、前歯が何本か折れている。  爬虫類のような顔をしていた。  どうかすると、蜥蜴(トカゲ)の一種に、このような顔つきをしたものがいるかもしれない。蜥蜴の嗤うところを見たかったら、この菊地の嗤(わら)った顔を見ればいい――そういう顔であった。  その菊地が、天を見あげているのである。  仙丈岳の頂(いただき)が、遠くに見えている。  その手前が、夜の森であった。  森の樹の多くは、ダケカンバか白樺である。  それらの葉が紅葉している。  風の中に、湿った、秋を迎えたそれらの葉の匂いが溶けている。まだ枯れる前の、どちらかというならみずみずしささえ感じられる、まだ、湿り気を含んだ葉の匂い。もちろん、新緑の頃の、あの青葉の匂いでこそないが、まだ生命(いのち)の呼吸の感じられる匂いであった。  森の手前に、牧場の草原のスロープが広がっている。  森に囲まれた牧場であった。  その草原の中ほどに一本の白樺の樹が生えている。  大きな樹だ。  牧場を造る時、その白樺だけ、切らずに残したのであろう。  その白樺に、一頭の牛がつながれている。  ホルスタイン――乳牛である。  そこから五〇メートルほど離れたところに大きな岩が地面から突き出ていた。ユンボなどの重機を使っても、そう簡単には動かせそうにないほど、巨大な岩だ。これも、牧場を造る時に、どかさずに残したものであろう。それほど大きな岩であった。  その岩から、少し離れたところに、岩に隠れるようにして、一台のジムニーが停まっている。  岩陰に隠れているのが、川島武士と沢口だ。  川島は、三三口径の狩猟用のライフルをそこで構えている。川島の横で、同様に岩陰に身を潜め、麻酔銃を構えているのが、沢口だ。  ジムニーの助手席で、麻酔銃を持っているのが、楠本喜一である。  その光景も、菊地のいる場所から見えている。  菊地の横にいるのが、九十九三蔵、久鬼玄造(げんぞう)、谷津島長安(やつしま ちょうあん)、吐月(とげつ)、そして、宇名月典善(うなづき てんぜん)である。  風がある。  月の横の、雲の動きが速い。  森の上の、樹々の梢が騒いでいるのが見える。葉と葉、梢と梢が風で触れ合う音が、潮騒のように、菊地のいる場所まで届いてくる。  その時、天を見あげていた菊地の眼に、見えてきたものがあったのだ。  菊地は、最初、それが鳥かと思った。  しかし、鳥にしては妙だった。  見た時、大きさを比べるものが近くにないので、鳥かと思ってしまったのだ。  しかし、鳥にしては、巨大すぎるのではないか。  それに、鳥に、あれほどの数の翼があるだろうか。鳥であるなら、翼は二枚――ふたつのはずだ。  それが、一枚、二枚、三枚、四枚、五枚――  五枚?  それもおかしい。  翼は一対だから、二の倍数、偶数でなければならないはずだ。  それが、五枚というのは――  いや、五枚も、偶数も何も、そもそも二枚以上翼があることがおかしいのに、それが、偶数かどうかなんて、どちらでもいいじゃないか。いや、五枚じゃないぞ。六枚、七枚ある。  大きさも不ぞろいだが、確かに七枚――いや六枚か、それとも八枚?  見ているうちに、翼の数が変化してきているのだろうか。  しかし、見えている翼のうち、何枚かは、羽ばたいているように見えるが、何枚かは動いていない。それも、空気をつかんで滑空(かっくう)しているのではない。ただ意味なく動いているだけの翼もあるようであった。  いや、それは、翼ではない。  腕か。  腕のようなもの。  脚のようなもの。  いや、あれは首か!?  そこまで考えるのに、たくさんの時間がかかったわけではない。  ほんのわずかの時間、二秒か三秒の間くらいに、このくらいのことを一度に考えたのだ。  皆、あの変なものに気づいていないのか。  みんな、あれが、空からでなく地上をやってくるものだと思い込んでいるのか。  森の方ばかりを見ている。  教えてやらなければいけない。  今、上に、おかしなものが、もしかしたらあいつが来ているかもしれないということを――  そう思った時――  その影が、月と重なった。  そして――  それが、真下に向かって落ちてきたのだ。  その時、菊地は、ようやくそれを声に出そうとした。  が、声に出す前に、 「来た」  そう言った者がいた。  九十九三蔵だった。 初出 「一冊の本 2013年6月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。