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tathu020さん のコメント

w←こういうのを使って脊髄反射で煽るだけのカス中二ばっかりって事ですね
No.50
139ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
一章 獣王の贄(にえ) 2  巫炎(ふえん)は、闇の中で腕を組み、胡坐(あぐら)をかいている。  保冷車の中だ。  いや、正確に言うのなら、保冷車の中に入れられた檻の中だ。  ジーンズをはき、Tシャツを着て、その上に綿のシャツをひっかけている。  闇の中だが、眼を開いている。  開いたその眸が、青く光っている。  しかし――  保冷車とはよく考えたものだ。  普通の車であれば、それがどのようなタイプのものであれ、逃げることはたやすい。窓のガラスを割って、そこから外へ出ればいいだけのことだ。  たとえ、それが強化ガラスであろうが、フィルムを貼ったものであろうが、いったんキマイラ化してしまえば、割ることはできる。  ドアだって、蹴破ることくらいはできるであろう。  それは、久鬼玄造(くきげんぞう)も承知している。  だからと言って、檻の中に巫炎を入れて、その檻をトラックの荷台に載せてゆくのでは目立ちすぎる。ビニールシートで、檻を囲ったとしても、人目を引く。  保冷車が選択されたのは、頑丈で、なお、外から内側を見ることができないからだ。窓もない。  その闇の中で、巫炎は、静かに呼吸しながら、視線を尖らせているのである。  と――  巫炎は闇の中で顔をあげた。  何か、聴こえたような気がしたからだ。  それは、上から聴こえた。 (あひいる……)  空の、ずっと高い所。  そして、また―― (あひいる……)  確かに聴こえた。  人の可聴範囲を遥かに越えた、高い声。  久鬼麗一(れいいち)だ。 「麗!」  巫炎は、顔をあげて、立ちあがっていた。  上から聴こえた――  それが何を意味するのか、巫炎にはわかっている。  人の声が、上から聴こえるというのは、普通、あり得ない。  近くに家があって、屋根の上からその声が届いてくるのか。  否。  屋根であれば、周囲の者たちが騒ぎはじめているはずだ。その騒ぎが伝わってこない。たとえ、それが、樹の上であってもだ。  崖の上から、聴こえてくるのか。  否。  ここが、信州の、牧場であることは、巫炎は知らされている。近くに崖のあることは、聴いていない。  しかも、その声は、ほぼ真上から近づいてきているのだ。  崖の上からならば、こういう聴こえ方はしない。  パラシュートか、パラセールか、そういうもので、上空から声の主が降りてきつつあるというなら、こういう聴こえ方はあるかもしれない。  しかし、それがただの人間なら、このような高い声は発せられない。  唯一、考えられるのは、上空から、久鬼麗一が、その声を発しながら近づいてきているということだ。  その声が、久鬼麗一がキマイラ化していることの証(あかし)であった。  それが、上空から近づいてくるというのも、キマイラ化の証である。おそらく、久鬼麗一は、変形(へんぎょう)し、獣の姿と化し、背から翼まで生やしているのであろう。だから、空からその声が近づいてきているのである。  そして、その声の意味を、巫炎は理解していた。  あのような声を、キマイラ化した者が、どのような時に発するのかを、巫炎は知っている。  獲物を見つけた時だ。  腹をすかせ、飢え、その食を欲している時、その対象となる獲物を見つけた時の声だ。  そして、その声は、悦(よろこ)びに満ちていた。  すぐに、思う存分、その獲物の肉に顔を突っ込み、血ごとその肉を噛み切り、舌で転がし、潰し、呑み込むことができるのだという思いと確信に溢れている声。  来るな――  そう叫ぶべきか。  いや、そう叫んで、久鬼麗一がここから去れば、どこか別の場所で、久鬼麗一は、また血肉を求めることになるであろう。  キマイラ化して、我を忘れている状態の時、人の血肉と動物の血肉を、区別できない。  それを、巫炎はよく知っている。  台湾で、それは、自分がやったことだからだ。  自分は、人の肉を生で食べている。  それも、生きながら。  そして、その時、自分は歓喜の声をあげていたことも覚えている。  それを、久鬼麗一にさせてはならない。  自分の内なる獣、キマイラをコントロールするためには、強い精神力と、訓練が必要である。  それを、自分は、できたはずであった。  台湾では、それができなかった。  それほど絶望していたのだ。 初出 「一冊の本 2013年7月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。