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kelvarさん のコメント

なんか違う。キマイラじゃない。とゆうか、俺の知ってる夢枕獏じゃない。
No.3
138ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
 あの時、自分の肉と心は、憎しみで満たされていた。  憎悪。  哀しみ。  絶望。  怒り。  そういうものに身も心も支配された時、訓練したことの何もかもを、自分は忘れ果てていた。  愛する妻――  久鬼千恵子。  そして、息子の麗(れい)。  妻の胎内にいる、子供。  それらの生命が、すでにこの世のものでないと思い込んでしまったのだ。  久鬼玄造が、彼らを連れ出したのだ。  日本へ――  その久鬼玄造を、自分は追った。  そして、彼らが死んだということを自分は知ったのだ。  いや、思い込んでしまったのだ。  そして、自分はキマイラ化し、台湾で殺戮(さつりく)を繰り返した。  九十九三蔵(つくもさんぞう)と猩猩(しょうじょう)によって、自分は捕えられ、自らを滅した。  しかし――  久鬼玄造や、麗が、そして千恵子の胎内にあった子が大吼鳳(おおとりこう)として日本で生きていることを自分は知った。  それで、自分は日本に渡ってきたのである。  自分が台湾でやったことを、麗に繰り返させてはならない。  しかし――  ならば、「来い」と叫ぶべきか。 「麗!」  巫炎は叫んだ。  高い音域の声で。  鉄格子を両手で掴み、喉を立て、叫んだ。 「麗!」  あれは待ち伏せている連中に、おとなしく生け捕られるようなものではない。  本人の意志に反して、そのようなことができるわけはない。  麻酔銃があるといっても、それは、たかだか象を何頭か眠らせることができるだけのものだ。  それが、どれほどの効果があるのか。  それができるのは、ソーマと、そして、あれと話ができるものだ。 (あひいる!)  その声が、さらに近づいてくる。  大きくなってくる。 「玄造!」  巫炎は叫んだ。 「おれを出せ。おれをここから出すんだ!!」  通常の、人に聴こえる声だ。  聴こえていないのか。  この声が届いていないのか。  鉄格子を掴んで、暴れた。  渾身の力を込めて、それを広げようとする。 「糞」  わずかに曲がった。  もっとだ。  力を込める。  さらに――  その時、音がした。  たあん!  銃声だ。  そして、さらに二発。  たあん!  たあん!  最初の二発は、麻酔銃。  三発目は、三十三口径のライフルの音だ。 (おきゃあああああ!!)  鋭い、悲鳴のような高い声。  怒り!?  とまどい!?  おれの食事を邪魔するのは誰だ!?  そういう声だ。  何がおこっているのか。  どうなっているのか。  叫んだ。  咆(ほ)えた。  しかし、あたりは静まりかえっている。  時間のみが過ぎてゆく。  車のエンジン音。  拳を握って、鉄格子を叩いたその時――  声が聴こえたのだ。  高い音域の、人に聴こえぬ声。 (誰だ。この声を発するのは誰だ。どこにいる――)  その声はそう言っていた。 画/だろめおん 初出 「一冊の本 2013年7月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。