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kelvarさん のコメント

>>3
作者も悩んでいたようですよ
開眼して割るか、(深雪を助けに行かなくちゃ・・・って感じで)強引に割るかで・・・

全然関係ないけど、今年は8月31日の海を観に行けそうにない・・・
No.4
137ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
5    それは、そこにいた。  上から、木洩れ陽(こもれび)のように注ぐ、青い月光の中だ。  幸いにも、こちらが風下(かざしも)だ。  音も、匂いも、向こうへは伝わりにくい。  草の中にうずくまり、一本の橅(ブナ)の幹に身体の一部を預けている巨大な獣。  グリズリーよりも、ホッキョクグマよりも、肉の量感のあるもの。  幾つもの翼がある。  何本もの腕や、脚が生え、それには獣毛が生えている。  獣毛が無く、鱗のある部分もあった。  鉤爪(かぎづめ)。  羽毛。  そして、幾つもの頭部。  口。  嘴(くちばし)に似たものもある。  蛇のようにゆるくのたうつ、腕とも脚ともつかぬもの。  ぐるるるるる……  るるるるるる……  チ、  チチチ、  チチチチチ……  低く唸るような声。  囀(さえず)るような声。  そして、無数の口がたてる、荒い呼吸音。  普通、吸気の時は身体がふくらみ、呼気の時は身体が縮む。  しかし、幾つもの頭部や口は、不揃(ふぞろ)いに呼吸を繰りかえしている。しかも、吸気と呼気の速度がばらばらだ。  麻酔弾が利いているらしい。  もこり、  もこり、  と、全身が動いている。  と、その動く獣毛の中から、口が伸びてきた。  頭部ではない。  それには、眼も鼻も、耳もなかった。  口だけが、ちょうど、子供の腕の太さぐらいの棒状のものとなって、その身体から伸びてきたのである。  その先端に、口がある。  口とわかったのは、先端が上下にか、左右にかはわからないが、ふたつに割れていて、そこから歯らしきものが覗いているのが見えたからである。  そして、舌が。  その棒状のものの内側を、何かがせりあがってくるのがわかった。  下方部分が膨らんで、その膨らんだ部分が上に移動してくるからである。 「えっ」 「えっ」  と、それが、人で言うなら、えずくような音――あるいは声をあげた。 「ケッ」  と、その口が、何かを吐き出した。  小さな、赤黒い、鶉(うずら)の卵ほどの大きさのものだ。  それが、獣の体表面を転がって、草の中に落ちる。  その時には、もう、同様の次の口が出現している。  その次の口が伸びている間に、身体のあちこちから、また次の口が出現して伸びてゆく。  どれも同じだった。  出現した口は、伸び、えずいて何かを次々と吐き出してゆく。  吐き出すたびに、それは、すこしずつ元気になってゆくようであった。  そうか!?  九十九は、樹の陰からそれを見ながら思った。  あの出現した口は、自分の体内から毒素を――つまり、麻酔薬を、血肉と共に吐き出しているのだ。  そして、出現した口が、ころりと、光るものを月光の中に吐き出した。  銃弾であった。  さっき、撃たれたおり、体内に潜り込んでいた銃弾を、あの口は吐き出したのだ。  それを見ながら、  どうする!?  九十九は考えていた。  もしも、久鬼を、この獣を捕えるなら、チャンスは今だ。  この獣が、覚醒しきる前に捕える。  このままだと、どんどん獣は回復していって、じきに、もとの生気を取りもどしてしまうであろう。そうなったら、もう、捕える方法はないのではないか。  この森のどこかに、宇名月典善(うなづきてんぜん)と、麻酔銃を持った人間たちがいるはずだ。  彼らに連絡をとるか。  しかし、連絡をとるといっても、どうやって。  携帯は?  しかし、携帯で連絡がとれたとして、どうやってこの場所のことを伝えればいいのか。  そのために声をあげたら、この獣に、久鬼に気づかれてしまうのではないか。  いや、そんなことではない。  そもそも、自分は、あの久鬼玄造に、この久鬼を捕えさせたいのか。  わからなかった。  小さく、身じろぎした。  その時、九十九の足の下で、  ぴしっ、  という音がした。  足の下に踏んでいた小枝が、折れたのだ。  そいつの体から、一斉に首が頭を持ちあげた。  どれも、音のした方を見た。  ぎ……  と、それが鳴いた。  ぎ……  ぎるるるる………  ぎるりりり………  そして――  かっ、  かっ、  と、幾つもの眼が開いてゆく。  かあっ、  かあっ、  と、幾つもの口が開いてゆく。  伸びた鼻が、臭いを嗅ぐ。  もぞり、  と、全体が動いた。  それが、立ちあがっていた。  もし、逃げるという選択肢があったとしたら、それは、すでに失われていた。  木の枝を踏んで音をたてた時、すぐに、逃げるべきであったのだ。 「九十九くん……」  低い声で、吐月が言った。 「君は、ゆっくり逃げなさい。わたしが、彼の気を引く」  前に出てゆこうとする吐月の肩を、九十九が押さえた。  覚悟は、決まっていた。 「ぼくが行きましょう」  言い終えた時には、九十九は、樹の陰から出ていた。  巨大な獣の前に立っていた。  不思議なくらいに落ちついていた。  足も震えていない。  迷いはなかった。  枝を踏む音が聴こえたのだ。  久鬼の耳に、声は届くのだ。  やるべきことは、ひとつしかない。 「久鬼、おれだ。九十九三蔵だ」  九十九は言った。  自分の声が届くか。  届いたとして、久鬼にそれがわかるか。  わかったとして、あの誇り高い久鬼がどう思うか。  そういう思考を捨てた。 「久鬼、もう、いい……」  そう言った。 「おれがわかるか。おまえは、もう、充分に苦しんだ――」  本心だった。 「おまえを救いたい。おれは、おまえの味方だ――」 画/今野隼史 初出 「一冊の本 2013年8月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。