• このエントリーをはてなブックマークに追加

toratoraさん のコメント

三蔵、九死に一生。だが、うまくいきそうになったところで、乱入者により久鬼や大鳳が逃げてしまうのが
これまでのパターン。もう、残り時間的にも逃げは効かないのだから、
典膳やひろしごときで一々場面転換を図ろうとせず、きっちりケリをつけて行って欲しい。
No.3
134ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
 しかし、久鬼は、そこに立ったが、すぐには動かなかった。  久鬼の本体――人間の久鬼の顔が、半分、もとにもどっていた。  吊りあがっていた眼尻の角度がわずかに緩やかになっている。  久鬼は、不思議そうな顔をしていた。  今、自分に何が起こったのか、それがわからないという顔だ。  九十九も、久鬼を見つめながら、立ちあがった。  気という力は、もとより物理力ではない。  物理力ではないが、今のような放ち方をすれば、体力は消耗する。  ゆるやかに、全身の細胞に、力がもどってくる。 「大丈夫です……」  九十九は、吐月の横に並んだ。  雲斎に救われた。  その思いがある。  石との対話がなかったら、自分は死んでいたところだ。  しかし、そのいったんは永らえた生命(いのち)も、すぐにまたキマイラ化した久鬼の前にさらされることになる。  そう思った時、久鬼の表情に、変化が起こった。  久鬼の眸(め)が、遠くを見つめたのだ。  天上に輝く月よりもさらに彼方にあるものを探すように。  その双眸(そうぼう)は、次に、地上へ向けられた。  その視線が、動く。  九十九の上を動き、吐月の上を動き、さらに森の奥へとその視線が動いてゆく。九十九や吐月のことを、もう、久鬼は忘れてしまったようであった。久鬼の興味は、何か別のものに移ってしまったかのようであった。  久鬼の口が開いた。  その口の中で、舌が動き、唇が閉じられたり開かれたりする。  何か声を発しているらしいが、その声が聴こえない。  と――  動いていた久鬼の視線が止まった。  その視線は、九十九と吐月の立つ、すぐ左側の森の奥に向けられた。  そこから、ふたりの男が出てきた。  濃い、小豆色の僧衣を身に纏(まと)った男――狂仏(ニヨンパ)ツオギェルと、そして、巫炎(ふえん)であった。巫炎は、削ぎ落とされたような頬をしていた。  髪が長く、双眸が怖いくらいに光っている。  九十九は、ひと目見て、それが巫炎であるとわかった。  貌(かお)が、久鬼と、大鳳に似ている。  しかし――  巫炎は、しばらく前、銃で撃たれたのではなかったか。  完全にキマイラ化していない状態で、銃弾を受けた時のダメージは大きい。  その時、今回、久鬼が受けたほどではないにしろ、麻酔弾を打ち込まれているはずであった。  なんという肉体の回復力であることか。 「九十九くんか……」  巫炎は、足を止めて、そう言った。  巫炎は、すでに、円空山で、真壁雲斎と出会っている。  九十九も、そのおりの話は雲斎から耳にしている。  一九〇センチを軽く越えて、二メートルに迫ろうとする九十九の巨体を見て、すぐに誰であるかわかったのであろう。  巫炎は、吐月をさらりと見やったが、今は、巫炎も吐月と言葉を交わしているゆとりはなかった。 「はい」  と、うなずいた九十九に、 「ここは、我々にまかせてもらいたい」  巫炎は言った。  巫炎は、久鬼と大鳳の実の父である。その人間にこう言われて、まかせないわけにはいかない。いや、まかせることに、九十九は異存はない。  九十九が、吐月に眼をやると、 「九十九くん、その方がいい」  九十九の考えを、肯定した。 「お願いします」  九十九は、巫炎に言った。 初出 「一冊の本 2013年10月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。