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rinさん のコメント

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rin
もうイラストはいらない。
No.7
135ヶ月前
このコメントは以下の記事についています
 巫炎にとっては、あるいは、九十九や吐月は、敵側の人間と見られてもしかたのない関係にあった。  久鬼玄造(くきげんぞう)が、巫炎を保冷車の中に閉じ込め、九十九も吐月も、その久鬼玄造と一緒にこの現場に駆けつけているのである。  それにしても、どうして、巫炎はあの保冷車の中から抜け出すことができたのか。  それが、九十九には不思議であった。  おそらく、今、キマイラ化した久鬼の前に立っている僧衣の男が、巫炎を助けたのではないかと、九十九は思う。  しかし、それを訊ねている時間は、むろん、ない。  ツオギェルは、久鬼の前に立って、しきりと身振り手振りで、何やら話しかけているようであった。  ツオギェルの口が開く。  声は聴こえない。  久鬼の口が開く。  声は聴こえない。  久鬼は、もどかしそうに、身をよじる。  そして、久鬼は、時おり、九十九にも聴こえる高い声で叫ぶ。  それに対して、ツオギェルは、たびたび、自分の両手を合わせ、それを自分の頭上へ持ってゆくという動作をしてみせた。  どうやら、ツオギェルは、自分と同じその動作を、久鬼にやってみろと言っているらしかった。  それを、久鬼が理解していないのか、そうではなく拒否しているのか――その動作をいやがっているようでもあった。  話をしている間に、だんだん、久鬼の感情が、昂ぶってきているようにも、九十九には思えた。 「巫炎さん――」  九十九は、巫炎に言った。 「今、久鬼玄造と宇名月典善(うなづきてんぜん)、それから銃を持った人間たちが、この森の中へ散って、久鬼を捜しています」  一瞬、久鬼玄造の顔が、脳裏に浮かんだ。  これは、久鬼玄造を裏切ることになるのだろうか。  そういう思いが、よぎったのだ。  その思いを、九十九は打ち消した。  冷静に考えてみれば――いや、直感的なところで言えば、今の状態の久鬼は、この僧衣の男と、巫炎の手にゆだねる方がよいのではないか。  それが、この場に居合わせた自分の務めであるような気がした。 「それは、おれも気になっていた……」  巫炎は、九十九にそう言ってから、ツオギェルの背へ向かって、 「おれがやろう」  声をかけた。  ツオギェルが振り返る。 「だいじょうぶですか?」 「やるしかない。台湾では、コントロールが利かず、たいへんなことになったが、今は違う。もしも、おれがまた、暴走しはじめるようなことがあったら、なんとか、おれを殺してくれ――」  言いながら、巫炎は、着ていた上着とTシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になっていた。 「このおれでなければ、あれは止められない――」  言い終えぬうちに、  めりっ、  と、額から、角が短く突き出ていた。  二本。  めりっ、  めりっ、  と、その角が、伸びてゆく。  バットで、背をおもいきり叩かれたように、  ごつん、  という音と共に、巫炎はのけぞっていた。  背骨が、ごつん、ごつりと、音をたてて変形してゆき、曲がってゆくのである。  肩胛骨もまた、変形が始まっていた。  肩胛骨が、膨らんでいるのである。  肉と皮を突き破って、肩胛骨が外へ飛び出してきたのである。  その、突き破ってきたものが、成長し、伸びてゆくのである。  それは、翼であった。  しかも、その翼は、黄金色をしていた。  身体が、膨らむ。  背骨が、曲がる。  ぞろり、  ぞろり、  と、これもまた黄金色の体毛が上半身に伸びてくる。  そこで、獣化は止まった。  半神半獣――  身体が膨らんだとはいえ、新しい食物を体内に取り込んでいないため、まだ、久鬼よりは、ふたまわりほど小さい。  しばらく前、血と肉を大量に吐き出したとはいえ、まだ、久鬼の方が、その身体が大きかった。  巫炎が、黄金の翼を振った。  ふわり、  と、その身体が、月光の中に浮きあがっていた。 画/ 卜部ミチル 初出 「一冊の本 2013年10月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。