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タツクさん のコメント

キマイラは万能細胞かな
No.2
134ヶ月前
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 啖(くら)えだと?  啖えだと?  いいだろう、啖ってやろう。  おれは、噛みついた。  そいつの身体に牙をたててやった。  ぞぶり、  肉を噛みちぎってやった。  生あたたかい血の味が、口の中に広がる。  なつかしい味だ。  美味(うま)い。  呑み込む。  食道を通って、胃の中へ。  どこにある胃か。  すでに、おれの身体から生えたいくつもの顎が、そいつの胸や、尻や、腕の肉を喰っている。  それを呑み込み、消化してゆく。  体内に、その血が溶けてゆくのがわかる。  もう一度――  左肩の肉を、齧(かじ)りとる。  なんという、不思議な味か。  おれの血が、そいつの血と混ざりあっている。  溶けあっている。  三度目――  それは、できなかった。  おれは、動きを止めていた。  なんということだろう、おれは、思い出している。  そいつ――こいつのことを。  こいつのことを、おれは知っている。  この味を、おれは知っている。  こいつの血と自分の血が混ざりあってゆくのにつれて、何かが急速に萎(な)えてゆくのがわかった。  天に向かって、激しく屹立(きつりつ)していたものがゆっくりと、その硬度を減じてゆく。  なんだ!?  どうしたのだ。  おれの身に、何が起こっているのか。  こいつの両手が、おれの身体から離れ、おれの両手首を握った。  あらがおうとしたのは、一瞬だった。  そいつの力のままに、おれは、両腕を頭の上に持ちあげられてゆく。 「掌を合わせるんだ」  おれは、いやいやをしようとした。  しかし、両手を開き、おれは、おれの頭の上で、掌を合わせていた。 「呼吸を――」  そいつは言った。  すう、  はあ、  と、そいつが呼吸をする。  その呼吸に、おれの呼吸が合ってゆく。 「気をためろ。ためて、両掌の間に念玉(ねんぎよく)を作るのだ……」  念玉? 「念玉だ」  知っている。  どこかで、それをやらされたはずだ。  つい、このあいだ。  ニョンパ?  だれから教えられたのだったっけ。  どこだろう。  いつだろう。  どこでもいい。  いつでもいい。  念玉を、おれは作った。 「それで、押さえるんだ。その念玉と、他の六つのチャクラを合わせて、鬼骨(きこつ)の力を押さえるんだ」  押さえる?  どうすればいいんだ。 「できるさ」  おまえはできる。  おれは、それをやった。  肉の中であれほど猛っていたものが、ふいに、咆吼(ほうこう)するのをやめた。  歯を軋(きし)らせるのをやめた。  獣が、静かになっていった。  ひゅう……  と、久鬼(くき)が鳴いた。  あるるるるるる…………  あるるるるるる………… 初出 「一冊の本 2013年11月号」朝日新聞出版発行 ■電子書籍を配信中 ・ ニコニコ静画(書籍)/「キマイラ」 ・ Amazon ・ Kobo ・ iTunes Store ■キマイラ1~9巻(ソノラマノベルス版)も好評発売中   http://www.amazon.co.jp/dp/4022738308/
キマイラ鬼骨変
待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始!



⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。

1982 年に朝日ソノラマから第1巻「幻獣少年キマイラ」が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。